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 打ちあいが終わり、僕らはぐったりと寄りかかる様にその場に座り込んでいた。
 息を整えながらティールに声をかける。
「腕を上げたな」
「……それでもどうしても貴方には敵わないな。やっぱりロトの直系の血……ってところか」
 彼の言葉に、僕は眉根を顰めた。
 大きく息を洩らして相手をまっすぐ見据える。
 僕の様子に何事か、とティールは黙り込むが、ややあって僕は口を開いた。
「……お前にだけは話そうと思っていたんだ。僕は……近いうちにこの城を出ようと思う」

 少しの、間。
 何をどう発すればいいのかわからないティールの口が金魚のように動く。
 唾をひとつ飲み込むと、ようやっと彼は発する言葉を思いついたようだった。
「……どうして?」
「僕と母上の周りにずっと付きまとっていた噂……知っているだろう?」

 噂。
 僕は現王の実の子ではない、という……例の煙たい噂。
「……そんなもの、私は信じていない」
「ありがとう。……でも、すまないが……噂は真実だと思う」
 僕の重い口調にティールは黙り込んでしまった。
 僕は更に続ける。

「でなければ母があのようなことになるはずがない。事実無根ならば堂々としていたはずだ。……ローレシアの王座は、現王の実弟の息子……ティルダ・アルトシアン・ローレシアが継いでくれればそれでいい」
 自分の真名を呼ばれ、ティールは大きく息を洩らす。
「私は……貴方こそがローレシアの王にふさわしいと思う。ローラント王だって噂を耳にした時、貴方は実の子だと公表していたじゃないか」
「そんなもの、……なあティール、少し疲れたから回復魔法をかけてくれないか」
 言葉を飲み込んだ僕を訝しく思いながらも、ティールは言われた通り回復の呪法「ホイミ」を唱えてくれた。
 人心地ついた僕はすっくと立ち上がる。
「ほら。……ロトの末裔ならば持っていなくてはならない力。……魔法が使えないんだ、僕は。わかるだろう?」
 ティールは息を飲んだ。

 ティールは常々、……現王子を追い落とし、自分の子を王座に就けようと画策している父、ドーヴィルからその話を聞かされているのだろう。
 僕の母はムーンブルクにある伯爵家の末妹だ。
 伯爵家はムーンブルク王家とは主従の関係にあったが、ロトの血筋ではなかった。

 かつての伝説の勇者ロトは強力な魔術の使い手だったという。
 代々のロトの血筋の家の者は、直系であろうと傍系であろうと必ず魔力を持っていたものだった。
 それは当然僕の父ローラントにしてもそうである。

 魔法の力を扱え素質のある者は、生まれた時から聖なる光を瞳に見せるらしい。
 生まれた直後にはまだ現れていなかったとしても、遅くとも3の歳を重ねる時までにはその片りんを見せるはずだった。
 だが僕は教師に習おうが父母に習おうが、兆しすら見せることがなかったのだ。
 そうして5の歳を迎えた頃に、街で、城内で、良からぬ噂が立ち始めたのだった。

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□モドル□


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