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 必要なものは薬草、それから……念のためキメラの翼もあった方がいいか。
 ぶつぶつと呟きながらぼくは荷物袋に必要と思われる道具を詰めていた。
 どんどん袋が膨らんでいく。

「そんなに持てないでしょう、ばかね」
 部屋に入ってくるなり母様が言う。
 つかつかと歩み寄ってくると、袋を取りあげて入っていた菓子などをぽいぽいと放り出した。
「まったくもう、こんな物持って……本当にのんきなのだから、貴方は」
 ぼくは照れ笑いすると出された菓子や雑貨をとりあえずテーブルの上に纏めた。
 とりあえず一つ包みを開けて一口食べてみる。

「……まだ16歳なのに、心配で仕方がないわ。危なくなったらキメラの翼で帰ってらっしゃい」
「はは、まだこの歳で死にたくありませんしね。その辺の調整はおいおい」
 言いながらキメラの翼と言われたアイテムを手に取ってみる。
 キメラという、空を舞う魔物の魔力をその羽に封じ込めて店先で売られている品物で、遠くに居てもその魔力を解放すると、使用者が最後にルビスの祝詞を受けた土地へ飛ぶことが出来るという代物だ。
 ルビスの祝詞を与えられる祈祷師はその数が多くないらしくて、いくつかの街や城に存在するのみだけど、各国の王はその祈祷の資格を就任前に受けるとのことだった。
 そういったわけで旅に出るには欠かせない必需品だ。


「ローレシアのレイカーリス王子ってどんな人かな。うまくやっていけるかな……」
 ぼくはまだ見ぬ相手に思いを馳せた。
 正確にいえばまだ魔物がはびこる前、各国の国交が栄えていたころ……ぼくが6歳ごろの時に一度謁見していたんだけど、小さい頃の記憶は乏しく……彼が栗色の髪に碧瞳であることしか思い出せなかった。
 親に付いて行っただけなので、あまり会話もしなかった。

「噂によると歳の割にずいぶんしっかりした方だそうよ。貴方とは同じ歳とは思えないくらい。……ご迷惑かけないように気をつけなくてはね」
「母様はいつまでもぼくを子供扱いする」
 やれやれと肩をすくめるとぼくは荷物を背負って立ちあがった。
「善は急げ! レイカーリス王子が泉に着いてしまう前に、さっそく出かけます!」
「のんきかと思ったらせっかちなところもあって……一体誰に似たのかしら」
 やれやれと溜息を洩らす母様に見送られてぼくは意気揚々と出かけていった。



「……は? 食あたり?」
 兵士のテントに顔を見せて聞いた言葉にぼくは思わず口をあんぐりと開ける。
 共に連れる兵士を待機させてあるから立ち寄って連れて行け、って父様から聞いて寄ってみたんだけど……。
 その兵士が昨夜どうにも腐ったものを食べてしまったらしく、腹痛で苦しんでいるというのだ。
「なんじゃそりゃ……」
 呆れ声を洩らすぼくに、兵士達は慌て始めた。

「もっ、申し訳ありません! 体力をつけなくては、とゆうべ作り置きのスープを勢い込んで食べたらしいのですがそれが腐っていたようで、その」
「あー、いいよいいよ」
 少し疲労してしまって、手を前後に軽く振る。
「ぼく一人で行くから」
 それを聞いて今度は兵士達が口をあんぐりと開けた。
「お、王子! いくらなんでもお一人では!!」
「危なくなったら帰るよ。大丈夫」
 言うと、荷物袋からキメラの翼を取り出して見せる。
「たぶん危険な旅になるし、危険を冒す人数は少ない方がいいだろ? 軍隊を出さない理由ってそもそもそれじゃないか」
「そ、それは……」

 兵士たちは顔を見合わせるけど、ぼくはおかしそうに笑って全員を見渡した。
「ぼくの曾爺様は一人で戦ったんだよ。でもぼくはローレシアの王子と一緒に行くつもりだし、ロトの血が二倍! 全然余裕、大丈夫!」
 指を二本立ててVの字にしてみせると兵士たちもおかしくなったらしくて、笑みをこぼした。
「貴方様のその明るさが世界を救うのでしょうね。カイン様、ご無事に討伐を成してお帰りになるのをお待ちしております!」
 兵長の言葉に、兵士たちは一斉にぼくに向けて敬礼する。
 ぼくはひらりと手を振るとテントを後にしようとした。
 その折。
「あ、ヨーゼフ部隊長にはお腹大事にしてねって伝えておいて」
 とだけ残して、その場を去る。
 腹痛の救護を受けている彼の顔を思い出すと、兵士たちは大きく溜め息を吐いた。

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□モドル□


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