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 さて、一人。
 外には恐ろしい魔物がはびこっているらしい。
 戦闘訓練は確かに一応受けてはいるものの、正直なところまともにやりあえるかどうかの自信はなかった。
 供も居ない今、かのローレシア代表様とお会いできる泉までは一人旅だ。
「……死にそうになったらキメラキメラ」

 呪文のように呟くと、ぼくは兵士や臣下達に見送られながら、意気込んで城の門を潜った。
 まだ昼下がりだ。
 太陽の光が野原を照らす。
 本当に魔物がこんなところに現れるんだろうか。
 このままのんきに泉まで辿りつけたらどんなに楽なことか。

 そんなことを考えながら、野原を歩き始める。
 泉は確か、ここから東北東にあるはずだ。
 どのくらいの距離なのか……一晩で辿りつけるならいいけど。
 だけど一週間もかかる距離にあったらどうしたものか……いや、ローレシアの人々が洗礼を受けに行く場所だ。そこまで遠いはずないよな。
 などと思案しながら歩いていると、林に差し掛かった。

 ここまで、魔物が姿を現す様子はないみたいだ。
 ぼくは道に迷わないようにと空を見上げた。
 太陽は南天にある。
 太陽がなくなる夜間には移動出来なくなるから、今のうちに出来るだけ移動しておかなくちゃ。
 そう考えると足早に森を進んだ。

「しまった。ご飯食べてくれば良かった……」
 昼食を取らずに出てきてしまったことを思い出した途端に、歩みが遅くなる。
 思い出してしまうと急激に空腹が増してきた。
「……少し休もう」
 がくりと脚を止めると、ぼくは大きく音を立てて辺りの木の根元に腰を下ろした。

 背負い袋からパンと、ミルクの入った……羊の腸で作られた袋を取り出す。
「今日のお昼ご飯何だったかな……ああ失敗した……本当に失敗した」
 パンを頬張りながら、今ごろ城で美味しい昼食を取っているだろう妹を思い出した。
 ぐびりとミルクを飲み込み、パンに捕られた口中の水分を補給する。
 その、時。

 背後の茂みが音を立てた。
 はっとしてそちらへ顔を向けると、一匹の巨大蟻の姿。
 アイアンアントと呼ばれる魔物だ。
 ぼくは相手から目線をはずさないようにして食料を袋にしまうと、ゆっくりと立ち上がった。
 それから、微笑む。

「こんにちは、えーと、ぼくはその平和主義者で、えっへへ」
 頭を掻きながらとりあえず話しかけてみる。
 襲ってくる気があるのかないのか、アイアンアントは動かない。
 あまりにも動かないので様子がおかしいと思ってそっと近寄ってみた途端。

「グルガガ!」
 いきなり声を上げ、蟻が飛びかかってきた。
「わぁ! あああ、うわあああああああ!!」
 不意を突かれたぼくは、思わず飛び上がると一目散に東の方へと林を走り抜けて行った。



「ですよねー! やっぱ襲ってきますよねー!」
 林の端で息を切らして屈みこむと、ぼくはどうにか息を整える。
 大きく深呼吸すると辺りを見回した。
 思わぬことで走っちゃったせいか、ずいぶん距離が進んだ気がする。
「ここ、どの辺かなぁ……」
 空を見上げると日はまだ高い。
 仕方なく再び東北東を目指し始める。

 腹ごしらえをしたためか、足取りはさきほどよりも軽快だ。
 武器はレイピア。
 あまり攻撃力の高い武器じゃないけど、うまく急所を一突きできれば一撃で相手を倒せることもある。
 少し歩くと、ちょこんとスライムが一匹佇んでいるのに出くわした。
 こちらに気づいていないようだ。
 これは、不意打ちで倒すべきかこっそり立ち去るべきか。

 悩んだ末、ぼくは立ち去ることを選択した。

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□モドル□


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