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 いうなり少年は荷物袋から毛布を取り出し、袋を枕にしてすやすやと眠り始めてしまう。
 普段自分が使っているベッドを提供しようとしていた老人は、あっという間に深い眠りに入ってしまった彼に唖然としてしまった。
 こんなところでよくもまあ熟睡できるものだと感心して溜息を洩らす。

 ローレシアの王子、レイカーリス。
 そしてこの王子……アシュカイナ・アレフ・サマルトリア。
 彼の真名だが、アシュカイナの名で呼ぶ者は少ない。
 カイン自身が、真名を名乗った後に誰にでも愛称で呼ぶことを強く推す為である。
 それは彼の国民に長らく愛称で呼び親しまれてきた名残なのかも知れなかった。

 ロト三国には、代々このような決まり事が定められていた。
 第一子に王子が産まれた場合は副名に「アレフ」を冠すること。
 第一子が王女だった場合は「ローラ」を冠すること。
 確かムーンブルクの王女は「ローズマリー・ローラ・ムーンブルク」といったか。
 老人はローレシアからの使者に、王女が産まれた時の報告を受けたことを思い出していた。
 それらの名を冠することが、王位継承権の第一人者であるという事実も証明する。

 そして。
 自国の王子、レイカーリスの名も、思い出してみた。

 彼は第一子であるにも関わらずアレフを冠していなかった。
 現状のローレシアの国勢には疎い、とは言ったがある程度のことはローレシアから配給を受ける際に聞いている。
 異母弟のドーヴィルが乗っ取りを企んでいること、そして彼によって王子に良からぬ噂が流されていること。
 その噂の真偽は知れない。
 ただ、ソニアが一度だけ困った顔をしてここに尋ねてきた時に聞かされていたことが一つだけある。

「私はアーリル様の味方です、どんなことがあろうとも何があろうとも。……アーリル様は間違いなく、ロトの血筋を引いております」
 どういう意味があるのかの追及はしなかった。
 王宮付きでなくなった自分にそれを追求する資格はないと思ったからだ。
 だが、彼女の前後の言い回しを考えると、彼はこういう結論に至った。

 王子は……おそらく噂通り、現王の息子ではない。
 その事実が明かされることがあったとしても、ソニアは王子の味方だと言いたかったのだろう。
 だが、その後の「間違いなくロトの血筋である」とは?
 考えられることは、王妃の道ならぬ相手がロトの血筋の者であるということだ。
 それはサマルトリアの者であるかもしれないし、ムーンブルクの者であるかも知れない。

 ……もう一つ考えられることは。
 王の異母弟、ドーヴィルが相手であると言うことだった。

 だがしかし、それならばドーヴィルが自らの地位を貶めるような噂をわざわざ広めるだろうか。
 その謎が解明されることはおそらく永久にないだろう。
 そしてまた、その必要はない。
 王子が何らかの手段でロトの血筋であることが将来証明されればそれで良い。
 老人はそう考え、その件について忘れることとしていた。

 さて……。
 件の王子がここへやって来るのはいつのことだろうか。

次へ



□モドル□


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