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 ぼくの顔から、レイピアを失ったあの時以上に血の気が引く。
 サマルトリアで待っていれば良かったんだ。
 驚かせてやろうなんていたずら心を起こさずにいれば、美味しい昼食だって食べられたし、彼が到着するまでゆっくりのんびり過ごせたはずなのに。

 思い立ったが吉日、善は急げ。
 ぼくは慌てて立ちあがると王に向かって一度敬礼した。
「早急に王子殿下を探して合流させていただきますゆえ、これにて失礼いたします。満足にご挨拶できぬ無礼お許しください」
「我が息子が我儘で貴殿に大変迷惑をかけて申し訳ない……。旅立つ時も、私が供の者をつけようとしたら勝手にそれを断って一人で出て行ってしまったのです。あの思いあがりにははなはだ困ってしまう……見つけたら、私が怒っていたとお伝えください」
「はい、はい、了承いたしました」

 それどころじゃない、むしろローレシア王に怒られるのはこちらの方だ。
 ぼくは慌てふためいて謁見室を後にした。



 ローレシア城を出ようと、小走りに城の中を急いでいると、ふと兵士たちの休息所の前を通りかかる。
 ぼくは中をこっそり覗き込んでみた。
 疲れて仮眠している人。
 剣を磨いている人などさまざまだ。
「あの、すみませーん……」
 ぼくはその剣を磨いている兵士に恐る恐る声をかけた。
 気づいた兵士が顔を上げ、テーブルに剣を置いて歩み寄って来る。

「子供が何用だ? 兵士見習いになりにでも来たのか? それならここでは受け付けられない、あちらの……」
「い、いえ違うんです、……使わない武器余ってません?」

 謁見室に通される前に城内街を少し観察したんだけど、やっぱりサマルトリアと同じように武器を扱う店はここには無いみたいだった。
 内乱が起こりやすくなるのを防ぐために、城内の街に武具屋を置いている国は少ない。
 代わりに、王宮戦士が城内街に住む者の身の安全を確保してやるっていうわけだ。
 城下町ならまた少し違ってくるけど……。

 ここから、レイカーリス王子が滞在していると思われる街までは急いでも半日の距離がある。
 それまでにまた魔物に襲われないとも限らないし、今度は逃げられるとも限らない。
 そこで、兵士から何か得られないかと考えたわけだ。
「使わない武器? 何に使うというのだ」
「はあ、ちょっと外を出歩かなければならないもんで、その」
 もじもじと頼りなく言ってみる。

 ローレシア王に素直に申し出れば多少の支給くらいはしてくれたかも知れないけれど……ロトの王族として、情けないところはあまり晒したくなかった。
 これから闇の討伐に向かうというのに武器も持たずに逃げてきたということもあまり知られたくはない。
 そういったある種のプライドから、ぼくは兵士に対して敢えて自分が王子だとは名乗らなかった。

「お前のような子供が外に出るのは危ないぞ。せめて出入りの商人か何かについて行く方が……」
「母さま、……母さんが転んで怪我しちゃって、薬草を買いに、その、すぐにでも行かなきゃならないから商人を待ってる時間はなくて」
「薬草ならここの城内でも販売しているが」

 どうにも上手い誤魔化し方が思いつかない。
 そこへ別の兵士が一人やってきて、黙ってぼくらのやりとりを眺めていた。

「特別な薬草じゃないと治せないんです! 勇者の泉に生えてるらしくて」
「今買いに行くと言ってなかったか?」
「それは言葉のアヤというか、そのー……」

 無理かな。
 そう諦めかけた時。
 ずっと見ていた兵士が二人に声をかけてきた。
「余ってる棍棒が何本かあるんだ、訓練用の。あれぐらいならあげられるが。どうかな」
「おい、ニフル」

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□モドル□


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