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 ニフルと呼ばれた兵士の言葉にぼくは顔を明るくした。
「それでいいです! お礼は、その、あまり出せませんがぼくの全財産で!」
 まだ渡してもいいと決めていないのに……と、今までぼくとやりあっていた兵士は眉根を寄せたけど、ニフルさんがまあまあと相手を制した。
 ぼくは荷物袋を漁っていそいそと金貨の入った袋を取り出す。
「これで、売ってください」

 溜息を洩らしながら兵士はその袋を受け取るけど、受け取った時にその重さに首をかしげる。
 そして中を見て目を丸くした。
「おい、これ一体いくら入ってるんだ。これだけあればリリザでもっといい武器が買えるだろう」

 リリザ……レイカーリス王子が滞在していると思われる例の街の名前だ。
 それを思い起こしながら、だからそこに行くまでに丸腰じゃもたないんだって! とぼくは心の中で叫んだ。
 尚も問いかけようとしてくる兵士を制してニフルさんが前に出る。
「……このお金は棍棒代としてありがたく受け取っておくよ。財産が無くなっちゃうようだけど、君は大丈夫なのかい?」
「はい、それは、まあ……なんとかなりますよきっと」

 ぼくのなんともお気楽な言葉に兵士は呆れたらしくて溜息を洩らした。
 なぜここまでしてこの棍棒を欲しがるのか、そして外に出たがっているのかが理解できないみたいだ。
 それを敢えて問おうとしないニフルさんにも疑問が湧いているようで疑惑の目を向けつつも、ひとまず黙っていることにしたらしかった。
「あと、兵士さん達は遠出したりする時に危ない目にあったりとかしますよね……良ければぼくの持ってるこれもお礼として貰ってください」

 ぼくは言いながら、キメラの翼を取り出すとニフルさんの手に渡す。
 これにはニフルさんも目を丸くした。
「いや、これはさすがに受け取れないよ……それに高価な物だろう」
「ぼく、……頼ってちゃだめだって気づきました。自分の力で何とかしないといけない、ところがこれを持ってると『いざとなったら逃げればいいんだ』って考えちゃうんです。だから、……すみませんがこれ、貰ってください」

 ニフルさんは少し考え込んだがやはりそれを受け取る。
 頷くと、同僚に目配せしてからぼくの肩を叩いた。
「わかった……貰っておくよ。君にはルビス様のご加護が必ずある。そして、ロトの守りも。……無事に目的を果たせることを祈っているよ」
「ありがとうございます」



 棍棒を受け取り笑顔で少年が立ち去ってから、ようやっと同僚の兵士は口を開いた。
「おい、何を考えてるんだ。さっぱりわけがわからん」
 ニフルはキメラの翼をテーブルに置き、ふむ、と頷いた。
「彼、わざと黙っていたようだったから平民のつもりで接したんだが……サマルトリアのアシュカイナ王子だよ」
「……は?」

 兵士がぽかん、と口を開ける。
「さきほど王に謁見されていた。その時はすぐに出て行ってしまったようだから、俺の顔までは覚えていなかったようだな」
「す、すると俺は王子に対して大変な態度を……」
 兵士はあわあわと慌てるが、その様子にニフルは笑う。
「噂通りの王子だ。明るくて場を和ませる力がある。それに物怖じしない。……彼なら、レイカーリス殿下ときっとうまくやっていけるだろう」
「道理で金、持ってるわけだ……」

 大仰な溜息を洩らすと兵士は受け取った金貨の袋をキメラの翼の隣に置いた。
「これは明日にでもサマルトリアへ返還しないとならないな」
 ニフルに言われて兵士も頷く。
 彼らにルビスのご加護がありますように。
 ニフルは、口の中でそう呟いた。

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□モドル□


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