「だってさぁ、君がいきなり部屋出てったんじゃないかぁ」
 ぶーぶーと文句を垂れるカインを横目にしながらパンを口に運ぶ。

 二人で取る朝食。
 何やらこれも久しぶりだった。
 ここ数日、旅に出てから一人で食事を取っていたこと……もそうなのだが、僕は城でもそもそも一人で食事を取ることが多かった。

 父と食事をすることは少なかった。
 彼は常に国務に追われていて、僕と生活のリズムが合わない。

 時折国務を手伝わせてもらっていたが、その時ぐらいしか一緒に食事をすることはなく……その時も互いにあまり会話を交わすことなどなかったから、実質は一人でいたのとそう変わらない。

 それ以外の僕の王子としての仕事は城内、そして城内街の見回りをして国民の話を聞くこと、その程度だった。
 何しろあまりにもはっきりとしすぎた派閥が出来上がっている為、僕が手を出せる仕事が少ないのだ。

 迂闊に手を出してミスでも起こせばドーヴィル側の派閥との激しい喧噪が始まる、……12の誕生日を迎えてしばらくは父の後を継ぐべく国務について学んでいたが、僕の起こす些細なミスによりそういった争いが起こるのが面倒になっていた僕は……いつしか父に直接言われた時以外、国務に手を出すのをやめていた。

 僕が手を出さなくなったことによりドーヴィルは我が息子こそ次代の王である、と言わんばかりにティールに国務に手を出させていたようだが、その辺りは深く関わらなかったのでティールがどうしていたのかはよくわからない。

 代わりに励んでいたのは、剣の腕。
 もっともそれは幼いころ、母が亡くなった頃からの慣習でもあったが、13を過ぎたころには僕はますますそればかりに打ち込むようになっていた。

 ……だから、というのもおかしいが、こうして会話をしながら食事を取ることなど久しぶり……を通り越して、初めてなのではないだろうか……などという気持ちにすらなる。

「あれはすまなかった、しかし僕にも事情があって」
「別にいいけどさぁ、……どうするの? 今日はこれから。ムーンブルク大陸に行っちゃう?」

 僕の言い訳を遮るとカインがミルクを飲みながら言った。
 問われて僕はふむ、と考え込む。
「……このまま行くのは危険……な気がする。ムーンブルク大陸といえばローレシア大陸など問題にならないくらい広い。その上魔物もムーンブルクを滅ぼしたことで図に乗って更に力をつけているだろう」
「なーるほどね」

 頷いてカインは窓の外を眺める。
 釣られて外を見る、快晴だ。
 雨は降りそうにない……出来れば歩みを進めたい気持ちもある……。

 カインは僕に顔を戻すと、笑顔でこう言った。
「先に湖の洞窟に行こう」
「……湖の洞窟?」

 はて、と首を傾げて見せるとカインが人差し指を曲げて見せる。
「鍵。……魔法の鍵が納められてるんだ、……ぼくたちのこれからの旅にたぶん必要になると思う。サマルトリアの国宝だし、国の王子が持っていくならいいよね」
「国宝? 国宝って、……お前」
 いたずらっぽい笑みを浮かべる彼に、僕はため息しか出なかった。


第四章へ続く



□モドル□


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