今の自分に取って強い敵ではないが……。
 戦いが長引くと毒素が更に身体を回ってやっかいなことになるかも知れない。
 剣を手にし、蟻をじろりと眺めながら僕は後退り……そして距離を取ると、そのまま走りだした。

 足が、痛い。
 思うようなスピードで走れない。
 すぐに蟻に追いつかれ、彼らは僕の前に回り込んで立ちはだかった。
「……ち」
 軽く舌打ちすると剣を構え直す。
 一匹が飛びかかり、同時に他の二匹が足元に噛みつこうと襲いかかった。

 しまった、かわせない。
 体調が万全の時ならたやすかったはずだが、今の僕は避けるタイミングを失ってしまった。
 蟻はその大きな牙で僕の首筋を狙ってきた。
 目をきつく閉じると、その痛みに耐えようと覚悟する。
 ……だが。

 いつまでも、痛みは来ない。
 何が起きた?
 そっと目を開けると……そこには。
 先ほど見逃した彼らしき、スライムが一匹。
 蟻に体当たりして相手を跳ね返していた。

 なぜ? 仲間割れ? いや、魔物の別種族に仲間意識があるのかどうかはよくわからないが。
 少なくとも、彼らはどちらも僕にとっては敵のはずだ。
 何が起こったのかわからぬまま、僕は四匹が入り乱れる様子を眺めていた。
 スライムが蟻に再び体当たりするが、実力の差は歴然としている。
 おまけに、多勢に無勢だ。
 僕はやや冷静になって考えてから、どうやらスライムは自分を助けようとしているのだと判断した。

 小さく口元で笑うと、アイアンアントの後ろに回り込んで一息に蟻どもを切り捨てる。
 スライムがやつらの気を引いてくれていたおかげで、あっという間に戦いは終了した。
 一呼吸すると、スライムに目を向けてみる。
 もしかして単に虫の居所が悪くて蟻と喧嘩していただけで、次は僕を襲うかも知れない。
 そう覚悟して見つめていたが……スライムが襲ってくる様子はなかった。

 しかし、なぜだろう。
 先ほど見逃してやったから恩義を感じた?
 いや、気づかれないように行動したはずだ、それはない。
 気づかれないようにといってもキングコブラと一悶着あったのでそれで存在には気づいていただろうが、僕が見逃そうとしていたことなどは知らないはずだ。

 そこまで考えて、ふと可能性に思い当たった。
 確かあの毒蛇はドラキーやスライムなどの弱い魔物を餌にしている。
 何かの理由で元々の生息地で餌が取れず、ここまでやってきたのだろう。
 そして蛇が先ほど襲ってきたのは僕が相手ではなくスライムを食おうとしていて、その道中に僕が立ちはだかっただけだったのだ。
 つまり彼は僕に救われたことになる。

「……助けてくれたのか?」
 僕は尋ねてみた。
 スライムに言葉が通じるかはわからない。
 だが、確かに頷いたように見えた。
 そっと手を伸ばし撫でてみる。
 スライムは大人しくしていた。
 おそらく僕の考えている通りなのだろう。
 彼のように、闇の影響が薄い魔物もまだいくらか居るらしい。
 僕は剣を鞘に納めると、目前になっていた街へと足を向けた。

次へ



□モドル□


Presented by 小説X ver1.1,