「しかし、王子。討伐は恐らく想像以上に厳しいものですぞ」
「……だろうな。僕一人で出来るものだとは到底思えない」
「ならばなぜ」

 訝しげな顔をする彼。
 当然だろう、僕が何を考えているのか読み取れないに違いない。
 僕は大きく息を洩らすと、自分の考えを告げた。

「討伐に失敗して……命を落とすことになればすなわち僕にはルビスの加護がない……ロトの血が流れていないことになる。ならばこんな血も身体もいらない。そのまま魔物にくれてやってしまいたい」
「……貴方は、なんという」

 僕の言葉に呆れたのか老人は首を大きく横に振った。
「貴方のそんな言葉を聞けば王が悲しむでしょうに」
 父を引き合いに出されて僕は視線を落とす。
 老人は更に続けた。
「誰が何と言おうと……貴方はロトの子孫であり、ローレシアの正統なる王太子。少なくとも儂はそう信じておりまする」

 老人の言葉に僕は顔を上げると、小さく微笑んで見せた。
「ありがとう。ならば……一人での討伐が叶うことを祈っていてくれ。ロトの血族ならば、出来る」

 僕に言われて老人は何と返せばいいのかと黙り込んだ。
 僕は、荷物を手にする。
「さて、ローラの門はどう越えたものかな。やはりアシュカイナ王子とは一度会っておかなくてはどうにもならないだろうか」
「一度お会いすればそこからまた別れて行動するというのも難しいと思われますが」

 老人の言葉に僕はやや考え込む。
 それから、こくりと頷くと、
「王子には申し訳ないが、サマルトリアへご退陣願おう。……彼を騙すことになるだろうことに少しの後ろめたさを感じるが」
「……その辺りは話し合いで上手くまとまることを祈るしかありませんな」
「ああ。……ま、それでわかっていただけるとは思うが、もしもアシュカイナ王子がここへ戻って来ることがあれば……」
「貴方のことは内密に……ということですな。我が国の王子の命とあらば、おおせのままに」

 老人が深々と頭を下げるのを見て僕も軽く一礼する。
 背を向け、洞窟を後にすると外はすっかり夕暮れになっている。
 今から、ローレシアへ向けて歩くべきか。
 いや、ローレシアは少し遠い。
 ……サマルトリアに向かってみようか?

 自問自答しつつも空が完全なる闇に落ちる前に、とさくさく歩き始める。
 小一時間ほどサマルトリア方面だと思われる方へ歩いていくと、辺りはすっかり暗くなる。
 ここまで幸い魔物は出なかった、さて……。

 近くに小高い丘が見え、そこへ登って辺りを見回してみた。
 遠くに街明かりが見える……。
 どうやら少し方角がずれてしまったようで、あれはサマルトリアの城には到底見えなかった。
 リリザ、か。

 いいだろう、リリザでもう一度休んでから明日の朝ローレシアに戻って王子を探そう。
 僕はそう決めてリリザの街明かりに足を向けた。

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□モドル□


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