昨夜過ごした宿屋に再び泊まることになるとは、と宿屋の建物を見上げて僕は苦笑した。
 ようするに旅路としてはまったく進んでいないことになる。
 扉をくぐると昨夜と同じ女将が顔を見せた。
「おや旅の人、いらっしゃい! 今夜もお泊りで?」
 僕は軽く頷くとカウンターにゴールドを差し出した。

「夕食も頼む」
「夕食は別料金で2ゴールドいただきますが、よろしいでしょうかね」
 頷いて追加の2ゴールドを差し出すと、女将に食堂へと促された。

 扉を開けると酒場のような雰囲気の部屋が広がる。
 小さな食堂だ、ここは街の酒場も兼ねているらしく、宿泊客の他にも数人の客が酒を酌み交わしていた。

 ……その中に、雰囲気に似つかわしくない少年が一人。
 他の客に交じって、ちびちびと何かを飲んでいる。
 僕とそう変わらなさそうな年の頃だが、どことなく品がある……言ってしまえば荒くれ者だらけのこの中に混じっているのにどうにも違和感を感じた。

 まあ、いい。
 何か事情があって彼らの中に混じっているのだろう、僕が干渉するようなことでもない。
 席に着き、オーダーを取りに来た男に適当に注文をする。

 男が厨房へ下がっていくのを見届けると、さて、明日からはどう動こうかと思案することにした。
 まずはローラの門を抜けたい。
 父のせいで、僕一人では通れなくさせられている。
 だからそのためにはサマルトリアの王子を利用させてもらうしかない、門を抜けたら彼にはお帰り願おう。

 どうせ危険な旅だ……危険に遭う人数は少ない方がいい。
 聞けばサマルトリアは随分平和な国で、王室に関しても、ローレシアの城内にある確執など微塵も無いらしかった。
 平和ボケした王子がこの危険な旅について来られるとも思えない。

 なんてことを黙々と考えていると。
 ふいに、視線を感じた。
 ……なんだ?

 辺りをきょろ、と振り返る。
 と、
 一組の瞳にぶつかった。
 先ほどの少年だ、飲み物を手にしたまま僕を凝視している。

 金色の髪に翡翠の瞳を持つ少年、益々持ってこの場に居るのが似つかわしくないと感じる。
 どうやらそれは向こうも同じらしかった。
 そばで共に飲んでいた男に何かを耳打ちしてから……立ち上がり、僕の元へと歩み寄って来る。
 何だろう、確かに互いに不似合いな場所ではあるが、だからといって見知らぬ相手をそう気に留める必要もなかろうに。

 僕が不可思議そうに相手が歩み寄るのを見つめていると、彼の表情が急に険しくなった。
 それから僕の手荷物や格好など僕の様子のあちらこちらに視線を走らせ……、たかと思うと、いきなり噛みつくように両肩に掴みかかってきた。

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□モドル□


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