……ただ少しだけ、ありがたいことであったかも知れない。
 僕は「アーリル」と呼ばれる身内からの愛称も、真名であるレイカーリス・アレンという名もあまり好きではない。
 自分がローレシアの王子たるべきものという自覚をさせられるはめになることともう一つ。
 「アレン」という名前は唯一、母が呼んでくれていた名だが……その名が「アレフ」ではない、ということはつまり僕にロトの血が流れていないことへの信ぴょう性を増す事実であるからだ。

 その、どの名前でもない名を与えてくれたことには感謝を覚えていた。
 けれどそれを別に彼に伝える必要もない。

 僕は荷物を肩に担ぎ直すと、食堂の扉を開けた。
「申し訳ありませんが、まだ夕食をとっていないのです。明日からのことは後ほど部屋で話し合いを願えると助かるのですが」
「だから! 敬語はナシで!」
 びし、と音をたてんばかりに勢いづいて相手が人差し指をこちらに向けてきた。

「はぁ……すみません」
「ほらまた! まったくもう〜」
 呆れ声を出されて僕はいささかむっとした。
 なぜそんなことで呆れられなければならないんだ……。

 だがどうにか抑えると、僕は軽く頭を下げた。
「……部屋名を教えてください。後ほど伺います」
 僕があくまで敬語を直そうとしないことに、相手もようやく諦めたようだった。
「強情だなぁ……、まいいか。僕はスライムの間に泊まってるから、食べ終わったらよろしく!」

 努めて明るく振る舞うと彼は場を立ち去った。
 ……途端、一気に疲れのような物が僕の全身を覆った。




「やっぱローレシアってちょっと堅っ苦しいんだろうなぁ。どうやったら柔らかくなるかなぁ……」
 ぼくはベッドにごろん、と寝転がると先ほどの碧い瞳の少年について考えた。
 それにしても良かった、会えた。やっと会えた。
 ぼくのドジなすれ違いのせいでずっと会えなかったらどうなっていただろう。
 それを考えても、ぼくはやっぱり自分の運がかなりいいんだな、と感じる。

 そうするとアレだな、ぼくがいればハーゴンなんて簡単に倒せちゃうかもね!
 なーんて考えてくすくす笑っていると、扉を叩く音がした。
「どうぞー」
 声をかけると音の主はやっぱりリークだ。

 先ほどまで帽子とゴーグルを頭に着けていたけれど、それははずしているようだった。
 栗色の髪がぼくの目に飛び込む。
 ……あれ。

 ぼくの脳裏に何かがひっかかった。
 栗色の髪に碧い瞳。
 6歳の時に式典で初めて出会った頃の……さすがに体格は変わっているものの、あの頃の面影を顔に残している彼。
 なんとなく懐かしさが込み上げてくる。
 あの時……挨拶以外の会話は出来なかったけれど、同じロトの血の者として。
 それ以上に、同い年の親せきってことでぼくは本当は彼と友達になりたかった。

 ぼくがぼうっと見惚れているのに気づき、彼が目の前で手を振ってきた。
 あわ、とぼくは顔をぶんぶん振って向き直った。

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□モドル□


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