「それじゃ頼みます。必ず鏡を見つけて帰りますので」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。……魔物の徘徊する中での危険な捜索をお任せする形になってしまって本当に申し訳ございません……」
 力無く言う彼に、リークはかぶりを振って答えた。
「貴方に頼む子犬の保護の方がよほど重要な任務なのです。……頼みます」

 リークが一礼する。
 ぼくもお辞儀し、歩き始めた彼の後ろについて行った。
 何となく子犬を振り返ると心配そうに見送っている。
 ぼくは軽く手を振り、さて。 

「リーク、ぼく思うことがあるんだけど」
「何だ」

 無愛想な応答をする彼に横に並んで、ぼくは言った。
「水鏡の盾として誤魔化せる鏡ってさ、ひょっとして……盾並みに大きいんじゃないのかな」
「……」
 ぼくの言葉にリークは少し考え込む。
「……大きければ見つけるのにはいいだろうが、持ち歩くのが大変そう……だな」
 互いに顔を見合わせて苦笑すると、ぼくらは道具屋に立ち寄って「キメラの翼」を一つ、買ったのだった。




 ムーンブルクの城から東の沼地地帯。
 途中に現れる雑魚敵を退けながらやってきたそこは、方々に橋がかかる様子が見渡せる場所だった。
 川がいくつもの支線に分かれていて、それぞれの岸を繋ぐように橋が掛けられている。
 
 そこに一つ、沼があった。
「あの沼のことかな」
「だといいんだが……。ここではなかったとしたらまた新たな沼を探すのに骨を折るはめになるな」

「……なんでもいいけどさ」
 ぼくはちょっと眉をしかめながら辺りを見回す。
 ぼくの様子にリークも同意するように首を縦に振った。
「なんだかおかしな臭いがする、な……何かが腐ったような……」

「やだなあ。魔物の死体でもあるのかなあ」
「そのような臭いだ……鼻で息をするのをやめよう」
 はあ、とため息を漏らして沼に近寄る。
 でも鼻の息を止めてもなお臭ってくるようなそれは……沼に近づいた時、最大限になった……気がした。

「……この沼が発生地?」
 ぼくの言葉にリークは沼へと顔を寄せる。
 それから、ものすごくしかめ面をして顔を離した。 

「ク……、クサッ……」
 思わず鼻をつまんでぼくも後ずさってしまった。

「なんだぁこれ、ムーンブルクのゴミ捨て場か何かなの??」
 すごい、ものすごい、生ゴミみたいなっていうかヘドロの臭いだ。
 ヘドロ? いや、さっき思ったのが当たってるならこれは何か、動物の死体か何かが腐った臭いだ。
 しかもムーンブルク城で死体を見かけた時とは比べ物にならない強烈な臭い。

 リークも鼻をつまみながらぼくの傍に寄って来る。
「酷いな……ゴミ捨て場かどうかはさておき、これでは探すのにも一苦労しそうだ。だが逆にこれで信ぴょう性が高くなった」
「どういうこと?」

 鼻をつまみながらだから変な発音になりつつリークに尋ねる。
 リークは鼻をつまみながら真面目腐った顔で言った。
「これだけ酷い臭いの場所にしておけば、ここにたまたま訪れた者がたまたま鏡を発見してしまう、という可能性が薄いってことさ」
「じゃあわざと臭くしてんだ」

 ……とはいうものの。
 なんていうかぶっちゃけていうと、トイレの中に入って探すレベルに酷い。
「やだなぁ……こうして鼻つまんでても吐きそうだよ」
「僕だって同じだ。吐きたかったら適当にその辺で吐け、どうせ同じだろう」

 ぼくらは溜息を洩らして沼に足を踏み入れた。
 うう、しかし。
 鼻をつまんだ状態で捜索も難しいから仕方なくさっきみたいに鼻の息を止めて口で呼吸して探してるけど、酷い。
 口から鼻に回ってくる感じ。

 ぼくは早々に体力を消耗してへたばってしまう。
「り゛ーぐ……ぎも゛ぢわ゛る゛い゛」
 変な声を上げるとリークは僕へと振り向いた。
「どうしても無理なら少し離れて休んでいろ。こんなところへ倒れこみでもしたら後が大変だ」
「ぞ、ぞう゛だげどでも゛……」

 リークはそれ以降は無言で沼を漁っている。
 良くまあ、我慢できるもんだよなあ。
 ぼくとは元々体力の差があるせいなのかな。

 なんて考えながらもますます気持ち悪くなっていったぼくは、ひとまず沼から上がることにした。
 そばに河が流れてる。
 河は、綺麗だ。
 この下流はムーンペタの人たちが水源にしてたりするんだろうか。
 じゃあここで体洗ったらまずいかな。

 なんて考えながらリークを眺めていたら。
「!」
 リークが足元に何かを感じたようで、慌てて底を浚い始めた。
「! 何かあった!?」
 たずねてみるけどリークは返事をしない。

 やがて。
 何か、大きな円盤みたいなものをずるり、と引っ張り上げた。
 あれは。
 あれは!
「リーク、それ!」


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□モドル□


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