ぼくは臭いも忘れて沼にもう一度飛び込み、そばに寄ってそれをしげしげを眺めてみた。
 泥で真っ黒だ。
 でも、確かに。
 中央に鏡と思われるツルツルした部分がある。
 壁掛け鏡として使えそうなサイズ。

「こんなところに鏡が割れもせずに沈んでいるのは普通ならおかしいからな、……たぶんこれで間違いない」
「やった!!」

 思わず指を鳴らしてしまった。
 こんなに簡単に見つかるなんて思わなかった。
「良かった、これであとはあの子犬がそうなら! バッチリじゃないか! 早く行こう、リーク、早く早く!」
 いても立ってもいられなくてリークを揺さぶる。
 けど。

 彼は眉を下げて首を横に振る。
 その表情に不安になったぼくは、「……どうしたの?」と恐る恐る尋ねてみた。
 すると。
「……この臭いを纏ったまま街に戻るのは……いくらなんでも無理だ……」
「あ」

 ぼくらは顔を見合わせて思わず笑うと、河の上流へと向かった。
 もし下流を生活水に使ってたとしたらごめんなさい、なんて考えつつ。
 でもこれだけ大きな河だし、ムーンペタの辺りに行くまでには浄化されてるはずだ。
 でなきゃ不純物が流れてくるなんてしょっちゅうのことだろうし。

 とかなんとか、色々自分に言い訳しながら河で身を流す。
 リークは何も考えていないのか別の事を考えてるのか、自分の体を服ごと洗いながらも、黙々と鏡も一緒に洗っていた。
 洗われれば洗われるほど、鏡は……輝きを増していく。

 ぼくはボーッとそれを眺めてみる。
 そんな様子に気づいてリークが顔を上げた。
「今夜は野宿しよう。洗ったと言っても臭いは完全に抜けていないと思う」
「そ、そうだね」

 頷いてからもう一回、とザブンと入って、河から上がる。
 そうして乾かす為にと焚き木を少し集めてギラで火をつけた。
 リークは……まだ洗っている。

 ずいぶん念入りだなあ、潔癖症?
 でも潔癖症ならあんな沼に入るのなんかごめんだよなあ、うーん……なんて火に温まりながら、次に王女のことを考えてみた。

 ムーンブルクの王女、ローズマリー姫。
 あの子犬が本当にそうなのかな。
 デアスさんがあの兵士の幽霊と話してたことも気になる。
 
 そしてこの鏡のこと。
 前王は知っていたけれど、レンドルフ王には伝えられていなかった、国の重宝。
 前の王様から次の王様に伝承がなかったってことは……その間に何かトラブルがあった、ってことっぽい。
 トラブル。

「あ、そうか」
 ぼくは帝王学で習ったことを思い出した。
 あそこって謀反で一回潰れてたんだっけ……。
 そうか、つまり、……たぶん。

 ぼくはリークが戻ってきたら、思い出したことを話そうと彼が洗い終わるのを待ち構えた。
 けど。
 いつまでたっても上がってこないもんだから、待ちくたびれて眠ってしまった……。


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□モドル□


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