その夜。
 僕は服を木の枝にかけて乾かしながら、目の前にある焚き火を眺めていた。
 あれから臭いが落ちるよう、乾かしては洗い、乾かしては洗いを繰り返したので服はなかなか乾かない。

 あの子犬が本当に王女で、そして今日見つけたこの鏡が本当にラーの鏡だとしたら、次に街に戻った時には王女と対面することになるだろう。
 王族として……あの臭いで他の王族に接するのは屈辱的なことだった。
 いや。
 王族として?

 僕は、幼い頃に見た彼女の姿に想いを馳せる。
 王族として、ではなく。
 恐らく僕は……一人の男、として彼女にそんな無様な姿と臭いで再会したくなかったのだと思う。

 ……大丈夫。臭いはほぼ抜けたはずだ。
 鼻が慣れてしまった可能性もあるが……カインからはもうあの臭いはしなかった。
 だから、僕からもたぶん抜けているとは思う。
 横で眠っている彼の寝顔を見て僕は小さく笑う。
 マントを毛布の代わりにしてすやすやと幸せそうに眠る彼がなぜだか少しだけ憎らしい。

 さて、どうしようか……。
 などと彼から視線を外して考え込んだ。

 王女を無事に救いだしたらその後の保護は誰に任せればいいのか。
 デアス殿か?
 いや、一兵卒の彼に、一度身を狙われた王女を預けるというのははなはだ不安がある。
 彼を信用していないわけではない。
 彼そのものについては一応信用はしているが……闇の軍勢がもし再度狙ってきたならば、信用があるなしの問題では済まない。
 ならば、やはりサマルトリアかローレシアでの保護が確実だろう。

 そこに送り出すための付き添い程度であるならばデアス殿で十分なはずだ。
 プランは固まった。
 カインが目を覚ましたら、そのことを告げようと考えながら僕は再び焚き火を眺めて……今度は何も考えずに、ただ茫然としていた。

 そうして数時間もしただろうか。
 どうやらうとうととしてしまっていたらしく、肩を揺さぶられて僕は目を覚ます。
「おはよ、リーク」
 にこりと微笑むカインに、僕は小さくあくびをしてから「おはよう……」と答えた。

 それからハッとして見回すと、肩にマントが掛けられている。
「これはお前の……」
「起きたら寝ちゃってたからさ。そのまま寝かせて見張り交代してたんだよ。君、上着干してたけど寒くなかった?」
「あ、ああ……」

 なるほど、随分な気遣いが出来るものだ。
 僕は少し感心すると小さく、
「……ありがとう」
 と呟いた。

「え? なに?」
「なんでもない。聞こえなかったならいい」
 聞こえるかどうかの小声で言ったのだから、彼のその反応も当たり前だ。
 と思っていたら。

「なんだい、ありがとうってお礼くらい相手にはっきり聞こえるように言いなよ!」
 ……。
 なんなんだこいつは。


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□モドル□


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