さて、随分大きな鏡を抱えて街に戻るのを嫌った僕らは当初の計画通り、キメラの翼を使って街に戻った。
 翼に掛けられた転移の魔法の光が僕らを包み、僕らは宙に舞い上がる。
「これって便利だよねー……ぼくにもこんな魔法が使えたらなあ……」
 そもそもどんな魔法も使えない僕は、カインのこの呟きを敢えて無視した。

 魔法の効果が消えると目の前はすでにムーンペタの街だ。
 カインではないが、確かにこの魔法には魅力的な効果を感じる。

 などと考えながらもデアス殿の元へと戻って来ると、ちょうど子犬にミルクを与えていたところのようだ。
 僕らがやってきたのを確認すると、彼はハッとして立ち上がった。
「ご無事でしたか! 子犬も無事に保護しておりました!」
「ありがとう、助かった」

 軽く礼を言い、それから脇に抱えていた鏡を取り出して見せる。
 子犬が、それを目にして瞳を輝かせた。
「それが、ラーの……鏡」
 デアス殿がほう、と感心した声を上げる。
「さすがロトの遺した神の鏡だけあって、沼の底に沈んでいてもまったく割れたり欠けたりしていませんでした」
 カインの説明にデアス殿は頷く。

 僕は意を決すると、
「デアス殿。万が一のこともありますからまずは裏通りに行きましょう」
 そう告げて、なるべく人気の無さそうな方へ二人を促す。
 どこかの建物の裏の木陰にやってきた僕らは、改めて子犬を見つめた。

「子犬を降ろしてください」
 彼が僕の指示通りに子犬を足元に下ろしたのを確認すると、僕は鏡を子犬に向ける。
 果たして、当たりかはずれか。

 息を飲んで、見守る。
 と。
「リーク! 見て、鏡に映ってる、これ! これ!」
 カインが脇から鏡を覗き込み、いきなり大声を上げた。
 慌てて鏡を覗き込もうとした瞬間。

 鏡が、大きな音を立てて勝手に割れた。
「なっ……」
 唖然として子犬から目を離したその時、眼前でまばゆい光が起こった。
 子犬がいたと思しきあたりが光に包まれ、影も形もなくなっている。
 ただ、光の球体がそこにあるだけだ。

「カイン! 今何が映っていたんだ!?」
 少しだけ焦りを感じて尋ねるとカインはこくこく、と大きく首を縦に振った。
「女の子が映ってた、すっごく綺麗な子……見たことある、昔に見たことあるよあの子、間違いない!」
 僕同様、鏡を見られなかったデアス殿は、目の上に手をかざしながら光を眺めていた。

 光が、段々……段々大きくなっていき、そうして僕らぐらいの大きさに成長する。
 やがてそれはしゅるしゅると縮みながら人の形を象って行った。
 光が、収まる。

 呆然としてしまった。
 まるで。
 そこに、女神ルビスが舞い降りたのかとさえ思った。

 月の光のような上品な輝きを持った、腰までもある長い髪。
 長いまつげに濡れた瞳、透き通るような白い肌。
 そして、均整のとれた目鼻立ち。

 おおよそ「ただの人」とは思えない……おとぎ話や伝承にでも出てきそうな不思議に美しい少女が……質素な布のワンピース一枚だけを纏って、子犬の代わりにそこに座り込んでいた。
「お……お」
 デアス殿が声を震わせる。 
 少女は数度まばたきをしてから、僕らを見回し、恐る恐る、声を出した。

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□モドル□


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