そう、王様に申し出たのはなんとデアスさんだった。
 姿も声も聞こえないはずなのに。
 ぼく達の会話を聞いていて、なにがしかの予想がついたんだろうと思った。
 王様は静かにデアスさんに顔を向ける。
「私の声が聞こえるのか?」

 だけれど、それにはデアスさんは反応しない。
 ぼくは……デアスさんが自分の王様の為に何かを成したいと必死な姿に、ちょっと潤んでしまった。
 ぼくのゴーグルを貸そうか、と額に手を当てた時。
「これをお使いください」
 リークに先を越されてしまった。

 デアスさんはおずおずと受け取ってから、ゴーグルを掛ける。
 そうして王様の居る方向に顔を向けると、掠れた声を上げた。
「……、……陛下」
「見えるのか、私の姿が。聞こえるのか、私の声が」

 途端にデアスさんは跪き、大声で泣きわめき始めた。
「もうし、わけございません! 陛下、私が逃げ出したばかりに、このような、……最後まで姫と陛下をお守りすべき立場のこの私が、このような、無様な……!」
「良いのだ」

 王様がデアスさんに近寄って肩を軽く叩く。
「お前が生きていてくれなければこうしてローレシアとサマルトリアの王太子がここを訪ねるのも難しかったろう、それに……全滅したと思っておったが、一人でも我が同胞が生き延びていてくれたのは喜ばしいことだ」
「陛下……」
 まだ泣いているデアスさん、それでもどうにか嗚咽を止めようと深呼吸をする。

 少し落ちついた彼の様子に、王様は頷いてから
「それで……呪いを解く方法、とは」
「……はい」

 一息飲み込んで、デアスさんは語り始めた。
「真実の姿では無い姿形に変化している者の真実を見破り、その魔法を解く力がある鏡のこと……陛下はご存じではないでしょうか」
「鏡」

 王様がふむ、と考え込んでから大きく頷いた。
「なるほど。勇者ロトが己の住む世界からこの世界へ持ち込んだとされる……光の精霊神、太陽神ラーの力を持った鏡……あれのことを言っているのならば合点が行く」

 勇者ロト。
 神様に最も近い人間、そしてぼくらのご先祖様。
 元々は別の世界に住んでた、っていう説はぼくも学院で習った。
 ぼくらからすればその世界こそがすでに神様の国、みたいなイメージなんだけど、そうだとするなら神様の世界から持ち出した秘宝なのかも知れない。
 そして、それなら変化の呪いを解く力を持っていたとしても全くおかしくない。

「その、ラーの鏡ってやつを見つければ王女の呪いが解けるってことですね。……でも、それって伝説上のアイテムなんじゃ」
「いや……」

 王様は首を軽く振ってから続けた。
「勇者アレフが持っていたと。そうして、アレフガルドから出て最初に居を構えたこのムーンブルクの近辺に隠した、と言われておる」
「隠した? 曾爺様が?」
 ぼくの上げた声にリークが反応した。

「ラーの鏡の話なら僕も聞いたことがある。……曾爺さんはその神の力が宿った鏡を、武具として……盾として携えていた、と」
「え、だって曾爺様が持ってたのってミスリル銀を鏡みたいに磨き上げただけのいわゆる"水鏡の盾"だってぼくは聞い……」
 そこまで言ってぼくはあっと声を上げた。

「大事なものだから、誤魔化せるように一般的な水鏡の盾として偽装してたってことか!!」

 ぼくたちは一斉に顔を見合わせた。
 そうか、こんなところで伝説の一片が繋がるなんて。

 曾爺様……勇者アレフは、ロトの鎧、兜、そしてロトの剣、ロトの印……と、それらをぼくらロト三国と、元居た国アレフガルドにそれぞれ遺していた。
 そう、勇者ロトの遺した武具を持っていたのに盾は、盾だけはなぜか違う物を持っていたらしい。
 なぜだろう、と思いながらもそれを学院で習った時にはあまり気に留めなかった。
 今、ここでわかった。
 神の力を持つ鏡、ロトが直接遺した武具ではないそれを、曾爺様はひょっとして誰かから隠すように言われていたのだとしたら?

「鏡を持っていたことを誰かに見咎められて、盾と言い誤魔化した」
 リークの言葉に頷いてから。
 ぼくは、ぽつりと零した。
「鏡は鏡なんだから、もちろん盾として使えるはずがないよね。だったら曾爺様は恐らく持ってた。……ロトの盾、を」
「ならロトの盾はどこにあるのだろう」
「今はそれよりラーの鏡だよ」

 二人で頷き合ってから、王様の方……リークはゴーグルを着けていないから、それらしき方、だけど……に顔を向けた。
「ラーの鏡の在り処はご存じですか?」
 ぼくが尋ねると王様は沈んだ瞳を見せてから、首を横に振った。
「ムーンブルクの近辺……という以上の手がかりは」
「それです、それなんですが……私の上司、トゥアールが知っていると思われます」
 デアスさんが横から口を挟む。


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□モドル□


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