「……デアス」
「ぼくはサマルトリアの王子、アシュカイナ・アレフです。彼はローレシア王子、レイカーリス・アレン。……トゥアールさん、何があったか教えてください」

 デアスさんはじっと黙ってぼくらの様子を見ている。
「デアス……貴様のうのうと生きていたのだな。姫は、……姫はどうした。無事なのか」

「これから呪いを解きに行きます」
 ぼくはトゥアールさんの声が聞こえないデアスさんの代わりに答える。
 でもなんだか……ぼくらが見えていないみたいだ。
 デアスさんの方にばかりじっと視線を注いでいる。

「……デアス、貴様は卑怯な男だ。せめて姫を救うだけでもしなければお前には一生卑怯者の烙印が押されたままだ。なぜ、逃げた。なぜ陛下と姫を護らなかった。卑怯者め……」
 ぼそぼそと、会話する気もなさそうに独り言のようにデアスさんに恨みをぶつけている。

 ……王様はデアスさんに気にするな、と言っていたけれど……こんな風に考える人がいてもおかしくない。
 デアスさんに彼の声が届いていないのが幸いかも。
 でも、デアスさんは黙り込んでしまったぼくらの様子に何かを感じたらしかった。
「……恐れ入ります、ゴーグルを貸してはいただけませんか」

 言われてぼくとリークはためらう。
 でも。
 何か考えがあるのかも知れない。
 ぼくはためらいながらも、黙ってゴーグルをはずして彼に手渡した。

「隊長……、……。申し訳ございませんでした……。わかっております。私は最低な卑怯者です。……姫は、無事……のはずです」
 トゥアールさんとデアスさんとの会話がはじまったらしかった。
 ぼくとリークはただ黙って見守るしかない。

「……怖かったのです、大事な人間を置いて死ぬのは……、ええ、そうです。貴方の言うとおりだ、本当に言い訳のしようもない……。そう。……その禊ぎをするために……これから、ローレシアとサマルトリアの王子お二人と一緒に、ローズマリー王女を救うため……ラーの鏡を探しに行くところです。ご存じでしょう? どこにあるのか、教えていただけませんか」

 そして少しの間。
「……そうですか。やはり貴方なら知っていると思った。ありがとう。必ず償いは致します。陛下と、そして貴方達の墓も必ず建てに参ります」
 知っている。
 トゥアールさんが、あの伝承の品物の在り処を知っている。
 王様ですら知らなかったのに?

 ぼくは怪訝に様子を見守る。
 やがて。
 デアスさんは大きく頷くと、ゴーグルをぼくに戻してきた。
「行きましょう、お二人とも」
「え、あ、ば、場所、わかったんですか?」

 ぼくが慌てて尋ねると
「ここから東にある沼地に沈められているらしい……。トゥアール殿が、前王に頼まれてその管理をしていた……ようだ」
 デアスさんの代わりにリークが答える。
「前王? ……レンドルフ陛下はそのことを知らなかったのに、どういうこと?」

 ぼくの質問にデアスさんは気まずそうな顔をした。
「……詳しい話は長くなります、ひとまずこの場所を出ましょう」
 彼に促され、ぼくたちは階段を上がり……そして、ムーンブルクの城を後にした。

 ムーンブルクでの出来事は体力的にも、いやそれ以上に精神的にぼくらにダメージを与えた。
 ひとまずムーンペタに戻ったぼくたちは、体力を回復させて鏡の捜索は明日にしようと結論づける。
 ムーンペタに戻る道中デアスさんは無言だった。
 詳しい話っていうのが気になったけれど、それを尋ねる空気じゃなかった。
 仲間に卑怯者と言われて……相当ショックだったのかも知れない。

 最初にぼくらと出会った時だってあんなに大泣きした彼だ、自覚があるところに更に追い打ちを掛けられて。
 何も話す気力がなくなるのは仕方がないことだと思った。

 街に着き、デアスさんとひとまず別れて宿屋へ向かおうとするとリークが「ちょっと待った」とぼくを止めた。
「何?」
「子犬を探そう」
「……」

 こんな時にまであの犬と遊びたいのか、と呆れて肩を竦め……ようとしてから、とあることに思い当たる。
「リーク、まさか、……」
「そのまさかだ。……恐らく間違いない。僕らにやたら執着するところがおかしいと話していただろう? だが……もしそうならつじつまが合う」

 ぼくは辺りをきょろりと見まわした。
 子犬の姿はない。
「で、も、……王女は敵のアジトに連れ去られたんじゃ」
「敵に連れ去られた、とは言われていたが敵の本拠地に、とは誰も言っていない。それにもしそのつもりならわざわざ犬に姿を変えさせる必要はないはずだ」


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□モドル□


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