「アテがないんだよね」
「ローレシアとサマルトリアの王家では用意出来そうにないの?」
 王女がカインに尋ねる。
 何やら出会ったばかりのこの二人が急に仲良くなっているように感じて、妙な気分になるがその感情は避けておくことにする。
 僕は少し考え込んでから、カインの代わりに答えた。
「ローレシアは僕ら三人では動かせない軍用船しかありません。サマルトリアは……」

 するとカインが引き継ぐ。
「うちも同じ。軍用船しかないし、海に面してないから最近海路ってのもあまり使ってない。大きな戦争もないしね。国交もロト三国とせいぜいラダトームくらいだけど、いつも大体の集合場所はローレシアだったからここ十数年こっちからラダトームに出向いたことってないんじゃないかな。……頼めば船くらい造ってくれるかも知れないけど……」
「私達の希望通りの船を早急に造って戴けるかわからない、ということね。もし数年……年は大げさでも、数ヶ月単位で掛かってしまったら旅の足が止まってしまって、その間にハーゴンが支配を強める」
 カインの口篭っていた部分をすぐに察すると王女が頷いた。
 それにしても聡い王女だ、と舌を巻く。

「私達三人で動かせる、それでいて丈夫な船。……条件が難しそう。でも船が手に入らなければ手詰まりになってしまいますね」
 すると、後ろから今注文していた食事を受け取ったらしいデアス殿がやってきた。
「港町ルプガナを頼ってみてはどうでしょう」
「ルプガナ!」
 王女が、「それだ」と言わんばかりにデアス殿を指した。
 そのまま言葉を続ける。

「ルプガナならさまざまな船職人がいらっしゃるでしょうし、すでに造られている物で私達の希望の船があるに違いないわ」
「ということは、次の目的地はルプガナで決まり、だね」
 カインの言葉に王女は「ええ」と嬉しそうに頷いた。
 だが。
 デアス殿が、提案者にも関わらず困ったように眉を下げた。
「申し上げておいて難ですが……ルプガナとムーンブルク間の陸路が断たれているようなのです。いかがいたしましょう」
「どういうことですか?」
 尋ねるとデアス殿は頷く。

「ルプガナ大陸とムーンブルク大陸を隔てる運河を繋ぐ二つの塔……通称ドラゴンの角、と呼ばれる塔があるのですが……その間を繋いでいた橋が魔物に壊されてしまったらしいのです。おかげでこちらに出稼ぎに来た商人も帰れなくなってやむなくムーンペタに戻り滞在を余儀なくされているとのことで」
「まあ……。そういえば私も街角で耳にしたことがあるわ、ドラゴンの角のことだったのね……」
 王女は困ったように顎に手を当てて考え込んだ。
 その憂いる仕草を僕はどこかで見たことがある気がする。
 幼い日の遠い記憶、それは幼い彼女の姿ではなく今のままの彼女の姿で脳内に再生された。
 だが自分が余計なことを考えているのに気づき、慌てて首を振った。

「今のご時世では橋を組み直すのも難儀……ということですか。参りましたね……」
 はぁ、とため息を洩らして見せる。
 ようやく活路が見出せたかと思ったらこれだ。
 しかし、カインは腕組みして考え込んだ後、こんなことを言った。
「走り幅飛びしてジャンプして飛び越えられない? その運河」
「……」

 運河がどのくらいの幅だと思っているのだろうか……。
 呆れて僕がカインの頭を小突こうとすると、
「待って、それよ、それだわ」
 王女が興奮してガタリ、と立ち上がった。
「え?」
 と二人で顔を上げると、王女は笑顔で頷いた。

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□モドル□


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