「それでは今夜はそろそろ解散しましょう。王女もお疲れでしょうし、着の身着のままだから国へ向かうのに旅の支度も必要でしょう。カイン、買い物に付き合って差し上げてくれないか。僕は鳩の用意をしてきます」
 彼女が自分の言うことを聞いたことに気を良くしたのか、リークはさっきより随分と表情を緩めていた。
 こ、こいつ……なんか亭主関白になりそうなタイプだなあ……。
 なんてのんきなことを考えてしまったけれど。

「今夜の宿代、それから国に辿りつくまでの当面の旅費は僕達から出せる分だけ援助させていただきます。王女、……貴方のご希望の国は」
 ぼくはうっかりそんな細かいところまで考えてなかった自分に気づいて、それからリークに感心した。
 よくまあ、気が回るもんだ。
 綺麗な女の子だから惚れちゃって気を惹こうとして……るとかそんなことはこの朴念仁に限って、無いか。
 心の中で苦笑しながら、王女が答えるのを待つ。

 王女はしばらく考え込んでから。
「それでは、サマルトリアで」
 と答えた。
 ここからならサマルトリアの方が近いだろうしそれは賢明な判断のように思う。
 リークはその選択に対して特に表情を変えず、
「わかりました。サマルトリアに連絡しておきます」

 そう言って部屋を後にした。
「それでは、私も姫をお送りする為の準備をしてまいります」
 デアスさんが立ち上がる。
「デアスさん、サマルトリアまで行ったら近いからリリザのご家族の顔久しぶりに見られるでしょ? 楽しみですね」
 そう声を掛けると彼は少し迷ったような顔をした。

「……先日も申しましたが……姫を護るべき立場の私が、一人だけ逃げ出したことを知れば家族の者はどう思うか……」
「大丈夫」
 横から、王女が声を掛ける。
「一人では私はきっとサマルトリアに辿りつけないわ。でも、だからといって王子二人に護衛を頼んだり、国から護衛を送ってもらうようなことになっては旅が遅れるし彼らに迷惑がかかってしまう。ムーンブルクの兵士であり、生き残ることの出来た貴方にしかお願いできないことなの。……ありがとう、生き延びていてくれて。その旨、貴方のご家族にも私からきちんとお話しますから」

 王女に言われてデアスさんは目を潤ませた。
 ぼくは、というと目を丸くしていた。
 確か彼女はぼくより年下のはずだ。
 それがこんなにしっかりしていて、相手の心を救う言葉を瞬時に紡げるなんて。
 ……もしも彼女がぼく達の旅についてきてくれて、ぼく達の間柄をコントロールしてくれればどんなに心強いことだろう。
 そんな風に考えてしまった。

 でも、それは無理な話だ。
 すごく残念な気持ちになりながらもぼくは立ち上がる。
「それじゃ王女、お店に行って必需品買いましょう! ……あ、ところで一つだけいいですか?」
 王女は頷きながら立ち上がると「なんでしょう」と首を傾げてくる。

 ぼくは満面の笑みを見せながら、いった。
「ぼくのことはカインって呼んでください、あ、あと敬語はナシでよろしく! ぼくも今から敬語はやめるから!」
 王女がぽかん、とするのがわかる。
 ちょっと退かれたかな……と思って戸惑っていると、王女はこれまた満面の笑みで返してきた。
「ありがとう。よろしくカイン、私も砕けて話させてもらうわ。……それから私のことは、マリアと呼んで」
「うん!」

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□モドル□


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