あ、ああ良かった。
 リークみたいに拒否ったり退いたりするタイプじゃなくて本当に良かった……。
 ぼくはほっと胸をなでおろすと部屋の扉を開いた。
「それじゃ買い物に行こうか!」

 意気揚々と出ようとして。
 は、とある事実に気づいて足を止める。
「……どうしたの? カイン」
 マリアが覗き込んできた。
 ぼくは、はは、と乾いた笑いを洩らして頬を掻いた。
「財布持ってるの、リークだ」





 伝書鳩の店で手続きをしている最中のリークにそれを話すとリークも「あ」と間抜けな顔をした。
 ぼくだけならともかく二人揃ってうっかりしてたなんて、やっぱりマリアの綺麗さに当てられてたのかなあ、なんて思う。
 伝令をしたためるには少し時間がかかるから、ひとまず鳩は後回しにしてぼくはリークにも買い物に付き合ってもらうことにした。
 マリアを連れて二人で道具屋にやってくる。
 入ろうと入口に足を向けると、リークが付いてこないことに気づいた。
 振りむいてみたら福引所の横の花壇に腰を掛けている。
「リーク?」
「女の買い物は良く分からない。お前は妹がいるから僕よりはマシだろう、アドバイスなりして付き合ってやってくれ。僕はここで待っている」
 そう言って腕組みしてしまう。

 はいはい、わかりました、と。
 やれやれと溜息を洩らすとマリアがくすくすと笑った。
「彼は貴方のことを信用しているのね」
「信用……なんで今の会話で?」
 首を傾げるとマリアはこくりと頷く。

「女性の買い物って細かいものが色々あるでしょう。だから彼はついてきたくないのだと思う。けれど護衛を付けないのは不安だから、貴方に頼んだ……のではないかしら」
「そこまで考えてんのかなぁ……」
 頭の後ろをぽりぽりと掻いて彼を見やれば「早く行け」と顎で促された。
 ま、いいや。

 店に入って小道具の辺りにやってきた。
 ぼくはいつもはあまり見ないコーナーにちょっとだけ心を躍らせる。
 旅には関係ないからってこういうところはいつもスルーしてたんだった。

「あ。そうそう、優先して買いたい物ってある?」
 マリアが商品のラインナップを見ながらそわそわしてることに気づいて、ぼくは声を掛けてみた。
 マリアは少し迷った瞳を見せる。

「ある、にはあるのだけれど……」
 それから口籠ってそれ以上話さない。
 なんだろな、と首を傾げてから。
 マリアの視線が一つの手鏡に向かっているのがわかった。
「鏡? そっか、女の子だもんね。買おうよ、大した値段じゃないし」

 ぼくが気づいたことにマリアは少しだけ嬉しそうにして、微笑む。
 けれど。
「鏡もそうなのだけれど……櫛と、他にも……少し、欲しい物が……あって……」
 更に口籠ってしまう。
 うーん、なんだろう、はっきり言えばいいのに。

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□モドル□


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