え?
 明かりがある?
 いや、違う。明かりじゃない、火?
 松明の火じゃなくてもっと明るい……。
 その光に照らされて、何か蠢いている物が見えた。

 ぼくは冷や汗をかいて、その扉から離れる。
 つい一瞬前まで何もなかったはずなのに、どうして突然火が?
 いや、どうこう言う前に、中に生きてる何かがいる!
 こんなに厳重に鍵を掛けられて、そして何十年も経ってるような趣で……そんな建物の中に生きてる物が居る!?

 なんだか不気味な気持ちになって血の気が引いた。
 ぼくはそろそろとその場から後退りする。
 リークの方を振りむくと、ちょうどマリアが駆けてきたところだった。

「ごめんなさい。遅くなってしまって……、……あの、カインは?」
 リークは本を読んでいたせいで一瞬反応が遅れてしまったらしい。
 ちょっとだけ間を置いて顔を上げ、辺りを見回してぼくに気づいた。
 ぼくは「おーい」と手を振る。

「そんなところで何をしているんだお前は」
 呆れ顔で溜息を洩らす彼にぼくは頭を掻いて見せた。
 が。
 マリアが少しだけ険しい顔になって、ぼくの所へやって来た。
「……カイン、どうしてここに」
「え、あ、ちょっとだけ……興味が、あって」

 マリアは難しい顔をして黙りこむ。
 それから建物を見上げた。
 そうか、……犬になってたとは言え彼女はしばらくの間この街の住民だった。
 何か知っていても不思議はない。
「ここ、何なの?」
 尋ねると彼女は首を横に振る。

「何でもないわ。行きましょう」
 そういってリークの下へ戻ろうとマリアが促した、……その、瞬間。

 突然。
 ぼくらの目の前で、扉を戒めていた鎖がぼろぼろになって、崩れ落ちた。
 その次はものすごい熱気が扉から発せられ、瞬くに扉が燃えてしまった。

 熱くてそばに居られない。
 ぼくはマリアの手を引いて思い切りリークに向かって走り出した。
 一瞬遅かったら、建物の倒壊に巻き込まれていただろう……、今までそこにあった建物があっという間に崩れ落ちて……炎の中に、2つの影が姿を現した。
 街の人々から悲鳴が起こる。
「なにあれ!!」
「いやああああ!」
「封印が……まさか!」
「逃げろ! みんな逃げろ!」

 怒号と悲鳴が入り混じる中。
 ぼくは、ようやくとんでもないことをしてしまったのだと気づいた。

 原因は何かわからない、わからないけれど……リークの言っていたことはほぼ正解で、ぼくは、その封印を解いてしまったらしい……。

「カイン!」
 リークが叫んでぼくの下に走って来る。
「何をしたんだお前は!」
 怒鳴りつけられてぼくは身をすくめてしまった。
「あ、あの、……ごめん、ぼくにもわからないんだ、その」

「二人とも離れて!」
 マリアが叫んだ。
 そうかと思ったら、リークにいきなり思い切りぶつかられた。
 その勢いでぼくらは二人とも地面に倒れ込んでしまう。
 何事、と思って見上げるとリークがぼくに覆いかぶさっていて……そして、たった今までぼく達がいた辺りは完全に焼け焦げて、もうもうと煙が上がっていた。

 そのままの姿勢で空を見上げると……空には赤黒い色をした魔物が二匹、飛びまわっている。
「あいつ、何……」
 ぼそ、と呟くとリークが身を起こして剣を引き抜いた。
「やっかいだな……。魔界に住むかなり凶悪な力を持った生き物でベリアル、とかいうのがいると聞いたが……恐らくあれはそれの幼体、ベビルとかいう魔物だ」
「そん、な……」

 思い当たるのはさっき唱えた、不完全な解錠の呪法。
 あれが扉の鍵どころか奴らの封印を解いてしまった、そうとしか考えられない。
 ぼくが変なことするまでずっとあの建物は静かだったんだから。


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□モドル□


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