「たあ!」
 リークが躍り出て斬りかかる。
 うち一匹の身体のど真ん中に、剣が入った。
 けれど力負けしてしまったのか……その剣は相手の身体を貫くどころか切ることも出来ずに弾かれた。
 なんだあれ、なんだあの化け物……。
 ぼくは自分の身体から血の気が引くのを感じる。

「カイン! 魔法を!」
 リークが振り返ったその時。
 リークの背中を、急降下してきたベビルの爪が切り裂いた。
「リーク!!」
 ぼくは驚いて目を見開く。
 こんな、ありえない、こんな、こんな、リークですら敵わない魔物が、そんな、ぼくのせいで、……!
 リークは声も出さずに倒れこむ。
 その背中をベビルが踏みつけた。

 だめだ、もし今あの恐ろしい炎を吐かれたら、いくらリークでも。
 ぼくは震える膝に必死に力を込めて立ち上がる。
 ベビルがもう一匹降りてきて、そいつがリークの頭を殴りつけた。
 地面に、血が、広がる。
 リークは、動かない。

 遠くで悲鳴がする。
 ぼくは目の前が霞むのを感じた。

 リークが、殺される。
 そして次はぼくも。マリアも。街の人も……。
 ゆるゆると呪文を唱えながら魔法陣を描く。
 ギラを、放った。

 火を吐く生き物に火の魔法なんて効くのかな、なんて思いながら。
 ベビルは片手でその炎をなぎ払った。
「はは、やっぱ、だめだよね……」
 すると今ギラをなぎ払った一匹が、ぼくに向いた。
 一歩ずつ、近づいてくる。

 喉がカラカラだ。
 逃げることも出来ない。
 膝から下に力が入らない、立っているのがやっとだ。
 こんなに怖い、と思ったのは初めてだった。

 怖い、怖い、怖い。
 だめだ、戦わなきゃ。
 リークを助けなきゃ、死んでしまう……みんな、死んでしまう……。

 脂汗か冷や汗かわからないものが落ちる。
 涙は出なかった。
 槍を手に取り、せめて、せめて少しでも傷を、と思って。
 よろよろと振り上げた。
「負ける、もん、か」
 飛び掛ろうと、した、その、時。

「カイン! 下がって!」
 背後から……透き通った声がぼくを止めた。

 驚いて振り向くと、マリアが手にしていた荷物をそばの茂みに投げ捨ててこちらへ駆けて来るのが目に入った。
「マリア! だめだ! 危ない!」
「いいからカインは下がっていて!」
 ぼくのそばにやってくるとマリアは驚くほどの力でぼくを突き飛ばす。
 前に出た彼女を見て、女の子だから……それとも、死に掛けたリークよりもいい獲物だと判断したのだろうか。
 彼女を二匹が取り囲む。
「マリア!」

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□モドル□


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