座り込みながら彼女の名を呼んだ。
 マリアはぼくに微笑みを見せると。
 手にしていた紙を胸の前に掲げた。
 そしてそこに描かれている何かの図面に掌を向けると、こう叫んだ。
「火を司る我が師、精霊神ガイア。その力我が身を通じて爆ぜたまえ!」

 呪文?
 でもあれは何の呪文だ、聞いたことがない!
 ……いや、ある、うっすら記憶があるけどぼくが覚えてないだけだ。
 次の、瞬間。
 マリアを爆心地として、取り囲んでいた悪魔二匹が爆発に巻き込まれた。
 恐ろしいまでの炎と風。
 なのに、それはその周囲に被害を広げることなく対象だけを焼き尽くす。
 そばにリークが倒れているのに彼にはまるで影響がない。
 やがて…その力は瞬く間に、ベビル達を焼き尽くした。
 炎が消えると、後には消し屑。

「……マリ、ア」
 ぼくは呆然として話しかけたけど、マリアはすぐにリークに駆け寄る。
 そして急いで魔法陣を紡いで呪文を詠唱した。
「ルビスの眷族、水と癒しの精霊神ウンディーネよ。ローズマリー・ローラ・ムーンブルクの命を受け、彼の傷を癒したまえ」
 マリアの手から暖かい光が放たれると、リークにそれが移った。
 さっきまで遠巻きにしていた街の人々が、そろそろとマリアの周りに集まってくる。

 リークが頭をふらふらと振りながら起き上がった。
「さっきの、魔物は……」
「もう大丈夫。倒しましたから」
「倒、した……?」
 信じられない、という顔でリークが彼女を見た。
「ええ。倒しました。私の魔法で」

 もう一度繰り返すマリアに、リークはぽかんと口を開けている。
 すると街の人達が恐る恐る話しかけた。
「も、もしや、……ローズマリー王女、では」
 それを問われてマリアは少し迷った顔をする。
 それから。

「はい。『ムーンブルクの悲劇』からただ一人、情けなくも逃げ延びました。ローズマリー・ローラ・ムーンブルクです」
 すると彼らはとたんにマリアを取り囲んだ。
 喜びをたたえた顔で。
「王女! 王女が生きていてくださった!」
「これでムーンブルクはもう大丈夫だ!」
 わあ、と大騒ぎになる。
 デアスさんが人ごみを掻き分けてやって来た。

「姫! ご無事でしたか!」
「この通り」
 そういうとマリアは立ち上がって、ぼくに顔を向け手招きした。
 ぼくはふらふらと彼女に歩み寄る。
「さっきの魔法は……?」
「たまたま道具屋で、魔法呪文の書を見つけたの。それでまだ覚えていない魔法や、呪われていた間に失ってしまった魔法を勉強し直そうと思っていたのだけれど緊急だったから……ページを破って描かれていた魔法陣を使ったわ。これでイオナズンを覚えるのは当分お預け、ね」
「そうか、あれは……イオナズン」

 ぼくは彼女のその瞬時の判断に驚いた。
 ぼくならその場でページを破って最強の呪文を唱えるなんて出来ただろうか。
 いや、イオナズンの存在すら忘れてたんだから、あの場に適した魔法を見つけるのに手間取って間に合わなかったに違いなかった。
 マリアは頷くとデアスさんに向き直る。
「デアス。私は……レイカーリス王子とアシュカイナ王子と共に参ります」
 その言葉にぼくら三人は「ええっ!」と思わず声をそろえて彼女を見てしまった。
 彼女は続ける。

「彼らの旅が心配になったの。ね?」
 そう言ってぼくらに振り向くと、リークが途端にいきり立つ。
「ローズマリー王女! 貴女を連れて行くわけにはいかないとあれだけ!」
「あら、王子。私が今出て行かなければ貴方は命を失っていたのではありませんか? 貴方に倒せなかった魔物を、私は倒したのですよ?」
 強気なマリアの態度にリークは怯んだ。
 ぼくは呆然と二人を見守る。

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□モドル□


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