リリザから約半日ほど西に歩いた場所に、その洞窟はあった。
 湖の洞窟。
 サマルトリアの国宝が納められている、重要な場所だ。

 ぼくはこの度、道連れになった仲間……リークと一緒にここへ来ている。
 ……この国宝を持ち出そうとしてるのは当然父様には知らせてない。
 先に父様に言うべきだった?

 いや、ううん、でも。
 ぼくは自分の考えをすぐさま否定する。
 サマルトリアに帰ってる時間が惜しいし、その上断られでもしたらまったく無駄足になっちゃう。
 ……ぼくの直感が、なぜかその鍵が必要だ、って頭の中で囁いた。

 ぼくにしろシアにしろ、父様にしろ……なぜか時々こういう不思議な勘が働くことがあって、それはほとんどの場合正しい。
 魔法の力によるものかも知れなかった。
 実際のところの理由はわからないし、「ラッキー」とか「運が良かった」程度ですまされる内容だからいつもは深く気に留めてない。

 ……でも、今回は違う。
 絶対に行かなければならない気がした。

「……長らく放置されているみたいだな」
 入口に立つと、苔むした岩壁を見てリークが呟くようにいう。
 ぼくはうん、と頷いて見せた。
「魔物を住まわせてあるんだ、わざと。だから人はめったに訪れない、整備する人もいない」
「わざと?」

 不思議そうに尋ね返してくる。
「守番の代わりに。……ここはサマルトリアからも結構遠いからね。守番を置いたとしても何かあった時に応援に駆け付けるのが大変だから。……魔物を操る能力を持った神官に依頼して、ここにわざと魔物を配置したんだ。だからその神官が一緒に居ればここの魔物は人間を襲わない」
「……その神官が何かの事故で突然亡くなったらどうするんだろう」
「その時になったら守番を置くか、それとも新しい神官を見つけてくるかのどちらかじゃない? どうするかは聞いてないや」
「……それは、また……」

 リークの呆れ顔にぼくも苦笑した。
 ぼくの父親だけあって、父様も結構アバウトなのだ。
 ぼくが16の儀式を迎えた時に、この洞窟も将来継がなくてはならないからということで教えて貰ってはいたけれど……その神官をどこでどうやって見つけてきたかはまだ教えてもらってなかった。

 そういえばムーンブルクにも似たような支配地があると聞いたけれど、それってなんだっけ……。
 何かの塔だったような気がする。
「……ローレシアにはそういうの、ないの? 泉の洞窟は?」
「あれは、……勝手に魔物が住み着いてしまったみたいだな。 泉を守るのは守番の力で済んでいるようだし、そもそもあまり強くない魔物ばかりだ。……以前一度駆除しようとしたようだが、後から後から切りがなく現れて諦めてしまったらしい。……あの泉には魔物をも魅了する力があるのかも知れないな」
「あはは、なーるほど」
 
 ローレシア王はぼくの父様やムーンブルクのようなやり方が出来なかったのか、それともやらなかったのか……どちらかは定かじゃないけど特に言及することでもないように思った。

「……とりあえず入ろうか」
「ああ……。……国宝とやらが本当に旅の役に立ってくれることを祈るばかりだが」
 皮肉とも、本当に心配しているとも取れる物言いにぼくは少し詰まってから。
 リークより先に一歩を踏み出した。

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□モドル□


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