「あたしは、元サマルトリア付きの侍女でね。引退して……ここに住まわせてもらってたのさ。アシュカイナ王子が生まれた頃とほぼ同時に引退したからね、王子はあたしの顔を知らないはずだ。そうだろう?」
 にぃ、と笑いを浮かべてカインに視線を向けてくる。
 カインは戸惑ってからこくり、と頷いた。

「その黄金の髪、翡翠の瞳。……赤子の時に見たきりとは言え……その品といい、わかるもんだね」
「そ、そんな、ははは」
 照れ笑いをして頭を掻くカイン。
 そのやりとりを眺めてから僕は老女に向き直った。
「ではここに住んでいたのは、取り立てた意味はなく?」

「意味は、……あるよ」
 そういうと老女はテーブルに置かれていた水晶球に歩み寄った。
「人生に迷った者のね……道を、示してやってるんだよ」
「それなら、……サマルトリア城下でなさればいいのに」
 カインの当然の疑問に老女は首を横に降った。

「人生に行き詰った人間が、多少の危険を侵してでもあたしの元へ訪れる。そういう覚悟を持った者にしか示してやらないのさ」
 わかったようなわからないような。
 僕らは顔を見合わせてから、老女に視線を戻した。

「……では、ぼくらの道も示してくださいますか」
「いいよ。あたしが元仕えた王子の頼みならば当然」

 快く引き受けてくれると、老女はごもごもと何かを呟きつつ水晶球を覗き込む。
 しばらく真剣な瞳で見つめている。
 やがて。

「…………女の子が一人、映っている」
「少女……」

 覗こうとして歩み寄ったが、僕の目には何も映らない。
 透き通った水晶球があるだけだ。
「あんたたちの旅に大きく関わる女の子だ。彼女を見つけ出さなければどこかで行き詰る」
「……その子は一体どこに?」

 カインの問いに、老女は再び何かを呟いて水晶を見た。
「……場所はわからない。ただ、とても高貴な身分の娘だ。大事な者を失って悲しみにくれている。その娘は……自分の住んでいた家が襲撃されて、そこから追われたようだ。……今わかるのは、ここまで」

 家が襲われて追われた高貴な身分の娘……。
 心当たりはある、あるが、しかし、まさか。
「まさか、……王女が」
 僕の代わりにカインが口にした、その言葉。

「王女? ……さぁね。王女様かどうかはわからない。もしかしてあんたたちとは違う世界、もしくは違う時代に生きているかも知れないしね。ひょっとして今はしわくちゃの婆さんになっているかも知れないよ」
「しわくちゃのって……だって今女の子、って言ったじゃないですか」
「それはこの映像が見えた姿での話さ。……今見えたのが未来のことを映しているのか過去のことを映しているのかすらわからない。まだ赤ちゃんかも知れないし生まれてないかも知れない、生まれ変わって魔物になってるかも知れない」

 なんともいい加減な占いだ、果たして役に立つのか。
 もしも王女のことを言っているのだとすれば……「見つけ出さなければ行き詰る」というのは重要な情報なのだが……。
 それにしたってここまで曖昧だとどう捉えていいのかもわからない。
 呆れて肩をすくめると。

 ひひ、と笑って老女は手を差し出してきた。
「10ゴールド」
「えっ、お金取るの」


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□モドル□


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