「くーんくーん」
 子犬が、まるで返事をするかのように鳴いた。
 ぼくとリークは思わず顔を見合わせた。
「まさか、な」
「人間の言葉がわかる天才犬だったりして」

 ぼくらは笑い合うと、リークが持っていた干し肉を一欠けら差し出した。
 ぱくり、と咥えて美味しそうに食べ始める。
「ずいぶん人懐こい犬だね。野良犬に見えないけど、でも飼われてる様子もないし……」
「捨てられたばかりなのかも知れないな」

 そういうとリークは子犬を抱き上げた。
「……どうするの?」
「……あ、の、……ここだけの話なんだが」

 無愛想ながらもなんとなく照れる様子のリークにはて、と首をかしげる。
「ここだけの話? 何?」
「…………好きなんだ、犬が」

 一瞬。
 何を言われたのか、わからなかった。
 え。
 あの仏頂面のリークが。
 犬好き。
 ……繋がらない。

「……好きなの?」
「二度言わせるな……」
 僕から視線を外すリークがなんだかおかしくて。
「あはは、いいんじゃないかな、いいと思うよ。どうする? その犬飼おうか?」
 思わずからかい半分に言うと、リークは想定外に悩み始めた。

「しかし連れて行けば危険が伴うだろうし……」
「え、あ、いや、冗談、……です」
 思わず敬語になってしまう。
 まさかそこまで犬好きだとは……。

 まあ、こんなに人懐こい犬ならリークほどでなくても、ぼくだって連れて行ってやりたいな、なんて思う。
 本当に可愛い。
 けど当然ぼくらのこれからの旅に連れていくことは不可能で、何より戦闘のプロの彼ならそれはわかっているはずだ。
 それをここまでめろめろにしてしまうなんて……ぼくはおかしくなって思わずくすくす声を立てて笑ってしまった。

「……悪かったな」
 む、とするリークにぼくは笑いを止める。
「君のそういうとこ、いいと思うよ」
 ぼくは首を振ってから子犬の頭を撫でてやった。
 心地よさそうにしている。

「君は人間に対しては少し厳しいタイプだけど。動物には優しい、とかさ。なんか親しみが湧く」
「親しみ、だとかそういう……」
 小さく唸って更に照れるリークが面白い。
「ちなみにそうやってデレるのは犬だけ?」
「デレ、……」

 リークは少し眉を顰めてから、咳払いして改めて語り始めた。
「……犬は、……昔飼っていたんだ」

 ぽつり、と呟くように言う。
「母上が飼っていて、とても可愛がっていた。僕も兄弟のようにその犬と仲良くしていた。……母上が亡くなるのとほぼ同時に、その犬も死んだ……、だから犬、という生き物に少し思い入れがある」
「ふーん……」

 なるほどねぇ、などと相槌を打ってからぼくはリークの腕から子犬を抱きあげ、地面に下ろしてやる。
「とりあえずわかったよ。この街に滞在している間くらいはこの犬と遊んでてもいいと思う。それはいいとして、今夜の宿を探さないと。犬のことは後回しにしよう」
「……すまないな、なんだか……その。女々しい話で」
「そんなことないよ。……とりあえずムーンブルク城へ行くのは明日でいいよね?」

 ぼくの提案に、リークは頷いて周囲を見回した。
「宿屋は……あの角の建物、のようだな」
「よし! 行こう!」
 ぼくらは宿に向けて歩き出す。

 子犬がちょこちょこと付いてきた。
 ……これは本当にどうにかしないと、街の外まで付いてきそうな勢いだ。
「なんでぼくらに付いてくるんだろう?」


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□モドル□


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