「ムーンブルク城は完全に……壊滅」
 食堂で相席になった男から、カインが聞き出した言葉。
 その男は気まずそうに視線を落とした。

 まったくもってカインの引きの良さというべきか、運の良さというべきか……には脱帽せざるを得ない。
 食堂がほぼ満席に近かったため、一人で食事している男に声をかけて相席させてもらったのだが、そのついで、とムーンブルクの様子について聞き出したところ、この男はムーンブルクの兵士だったというのだ。
 しかも、ついぞ城が魔物に襲われた時に在籍していたという。

「……どうして私だけのうのうと生きているのか……」

 席に着く前から妙に雰囲気が暗かったので相席はどうか、と少し迷ったのだがカインが強引に押し切って話を聞きだしたところ、男の食事の手は完全に止まってしまった。
 俯き、涙声になっているようだ。

「私の、せいなのです、……ムーンブルクがあのようなことになったのは」
「……どういうことですか?」
 カインが尋ねる。
 男は頷くと、机に突っ伏して嗚咽を上げ始めた。
 僕らは思わず顔を見合わせてしまう。

 黙って様子を見ているとしばらくして顔を上げ、ナフキンで顔を拭いて話を続けた。
「旅の人の貴方がたに聞いてもらって懺悔になるかは知れませんが……聞いてもらえますか」
「……ぜひ」
 頷いて話の続きを促す。

「……私は、あの日見張り番の役目を仰せつかっておりました。魔物が襲撃してくる様子を見張り台で確認していたんです。それで、恐ろしくなって、……魔物がやってくることを仲間に伝えると、この街まで一目散に逃げました、……リリザに妻と息子がいるんです。まだ、死にたくなかった……しかし現状、こんな情けない姿を家族に見せられるものでもありません。死ぬことも出来ず、生きるのも地獄……ムーンブルクを捨てた私への罰なんだと思います」

 ひとしきり語ると男は、はぁ、と大きくため息を洩らした。
 なんだか男のトラウマを誘発してしまったようだが……僕らにとって彼が生き延びてくれていたのはありがたいことだった。
 僕はカインと顔を見合わせてから頷くと、男の肩を軽く叩く。

「……僕らが、仇を取ります。貴方だけでも生き延びていたことは喜ばしいことだ。……貴方が仮にその場に残っていたとしても、ムーンブルクが壊滅するほどの軍勢であったならば……難しかったかと。逃げたのは良計だと思います。貴方は見張りの務めもきちんと果たしている。嘆くことではない」
 僕の言葉に男は虚ろであった目に光を微かに灯す。
 ゆっくりと僕らの顔を見た。

「……仇を取るだなんて、出来るはずないでしょう。今貴方が言ったことを丸のまま返しますが。ムーンブルクが、あの魔法大国が壊滅するほどの力なんですよ」
「大丈夫です。ぼくらになら出来る」

 カインに言われて男は不可思議そうに首を傾げる。
 それからしばらくして。
「あ、………あ、まさか、貴方がた、は」
 目に見えてうろたえ始めると、男は大きな音を立てて椅子を立ち上がった。
 周りが一瞬こちらに注目する。


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□モドル□


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