が、すぐにまた各々の談話に戻った。
 男はと言えば、テーブルに突っ伏して頭を擦りつけると、
「ももももももも、申し訳ございません! すぐに気づかず!」
 と大声で謝り倒し始めた。

 食堂が大きい上周りは自分たちの会話に夢中であるからさほど気にされはしなかったものの。
 さすがにここまで彼に大騒ぎされるのもどうかと思い、彼の肩を再び叩く。
「す、すまない……お忍びに近い状態なんだ、もう少し小声で」
「! も、申し訳ございません……」
 男はようやく息を整えると席に座り直した。

 それから頭をやや下げ気味にする。
「まさか、……このような所に供もなくいらしているとは夢にも思わず、本当に失礼をいたしました……」
「そう思うのが普通ですよ、気にしないでください」
 カインが軽く笑って見せる。

 そう、リリザに住んでいたというならば僕ら、いや少なくともカインの顔くらいは知っていても不思議はない。
 幸いだったのは彼が僕らの名前を大声で叫ばなかったことだった。

「……ともかく、僕らがなんとかする。だから貴方は安心してリリザに帰って、無事な顔を家族に見せてください」
「……いえ。まだ、帰れません」

 男が首を横に振った。
「せめてもの罪滅ぼしをしなければ。……せめて、せめてレンドルフ様とローズマリー様、そして仲間達の亡骸を見つけて、墓を建てるぐらいはしないと……おめおめとリリザには帰れません」
「レンドルフ……ローズマリー……」

 男が口にした名をオウム返しに呟いてみる。
 レンドルフ・ネイアス・ムーンブルク、そしてローズマリー・ローラ・ムーンブルク。
 ムーンブルクの王と王女の名前だ。

 王女とは幼い頃に一度会ったきりだ、あまり会話を交わした記憶もない。
 幼い頃に、といえばカインもだ。
 ロト三国ではロトの式典が数年に一度行われるが、その時に彼らが各自の王に連れられてやってきて挨拶を交わした程度で……その時は知り合いと呼べるほどの関係にはならなかった。

 ただ、ローズマリー王女の幼い顔は妙に記憶に焼き付いている。
 なぜなら……僕が物心ついてから最初に行われた式典で見かけた彼女は……亡くした母に瓜二つ、だったからだ。
 もちろん僕と同じくらいの歳の頃の少女だ、瓜二つといっても「母がこのくらいの年齢であるならば」という前提がつく。
 しかし。
 それにしても、纏う雰囲気があまりにも似ていた。

 それ以降、彼女と会ったことはない。
 彼女にしろカインにしろ城に尋ねてくることは何度かあったらしいし、僕としても国務で何度かサマルトリアやムーンブルクに出向いたことはあったが、それぞれがそれぞれの事情で大抵席をはずしていた。

 僕は時間が取れればとにかく剣技の上達に打ち込んでいた。
 彼らと慣れ合う気が毛頭なかったので、僕がわざわざ出る必要がないのなら、と謁見を拒否したのだ。
 ローズマリー王女は僕が顔を合せなかった理由と似ているらしい、どうも時間が取れると魔法の学びに励んでいるようだった。
 カインに至っては民衆の通う学院に通っていたらしく、僕が訪ねたのは大抵その学院に居る時間帯だったのが大きい。

 そのようなわけで僕とカインは今回の旅で初対面同然の顔合わせとなったわけだ。

 ……あの、王女に、出来ればもう一度会ってみたかった。
 母と同じ面影を持つ少女に。


次へ



□モドル□


Presented by 小説X ver1.1,