まずい、噛まれた……。
 魔物の気配に気づかないなんて情けない、激しい痛みにぼくは思わず膝を付く。
 とたんに二匹目、三匹目がぼくの上に踊りかかって来る。
 声を上げる間もなくぼくは三匹のアリにのしかかられてしまった。

「っ、くそ!」
 振り払おうとするけれど今度はその手に噛みつかれて「っぐ」思わず声を上げる。
 だめだ、殺される!

 いきなりの、……今のぼくにとっての強敵の大群に襲われてぼくは目を閉じ、覚悟を決めた。
 その時耳に声が届いた。

「剣を振れ! 思い切り!」
 リークだ、……彼の言うとおりに無我夢中になって思い切り剣を振り回す。

 と、ぼくの胸を押さえつけていた敵の足が一本、吹っ飛んだ。
 少しだけ身体が軽くなる。
 ぼくはその勢いで目の前にいた相手の胸に向けて思い切り剣を付きだした。

 ぐずり。
 嫌な感触が手に伝わる。
 その次の瞬間、今刺したアリが目の前から消え去り、続いて周りに居た他の二匹も消える。
 なんだろうと思ったら……リークがすべて薙ぎ払っているのが目に入った。

 他のアリもほとんど彼が倒してしまったようだ。
 一匹だけまだ息があるらしく、ぴくぴくと動いている。
 それをためらうことなく、リークは斬り捨てた。
「……お見事」

 もう一度同じセリフを発したぼくに向けて、リークが冷たい視線を送って来る。
「……ここまで戦えないとは思わなかった」
「……」

 気まずくなってしまう。
 城で戦闘術は習っていたけれど、やっぱり実践とはぜんぜん違う……。
 リークはどうしてこんなに戦いに慣れているんだろう、彼だって……ぼくと同じ王子様、のはずなのに。
 ぼくは呆然としながら立ちあがった。

 とたん、さっき首元を噛まれていたのを思い出す。
 急減に痛みに襲われる。
 触れると、血が出ていた。

「つう……っ」
 ぼくが顔を顰めて見せると、リークは背負い袋から薬草を取りだして差し出してきた。
「……ほら」
「いいよ、ホイミがある」

 断って魔法陣を紡ごうとしたら、リークはその手を止めて首を横に振った。
「魔法は……とっておけ」

 どうしてそんなことを言うんだろう。
 わからないけれど、なんとなく戦闘のプロである彼に従った方がいい気がする。
 ぼくは頷いて薬草を受け取り、傷口に当てた。

 布で巻く。
 それにしても効き目抜群の薬だ……痛みがあっという間に薄らいでいく。
「……行くぞ」

 無愛想にいうとリークはすたすたと歩き出す。
 ぼくは慌てて後についていった。

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□モドル□


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