そう言って返してきて、ぼくの手に握らせた。
「そうだけど、でも……」
「さっきは……言いすぎた。すまない」

 視線を逸らしながらやや弱い語調で謝って来る彼を、ぼくはきょとんと見つめてしまう。
 さっきまであれだけ言っていた彼と同じ人だとは思えない。
「……どうしたの」

 尋ねると、リークは首を軽く横に振った。
「気が立っていた。……目の前で死なれるのは困る、だとか……一方的に自分の立場だけで考えていた。けれど歩きながら、何のために500ゴールドもの大金を棍棒一つの為に使い果たしたのか、魔物に運良く出会わずにすんだのか、……ここまで死なずに来られたのか、などと色々と……お前にも理由があるんだろうと考えて、それで、……やはりお前は真のロトの子孫で、ルビスの加護があるんだろう、と思ったんだ……」

 真のロトの子孫。
 まるで自分がそうではないかのような言い方。
 なんとなく胸が締め付けられる思いがする。

 ぼくは頭の後ろを掻きながら決まり悪く笑った。
「君が怒るのはわかるよ……ぼく、本当にへなちょこなんだ。実戦らしい実戦はさっきのが初めてだった。……君がいなかったら死んでた。ありがとう」
 そう、命を救われたお礼をしていなかったのに今頃気づいて、軽く頭を下げる。

「……死なれたら困るのは本当だ。だからこれから先は気を引き締めてくれ」
 冗談めかしてリークが笑う。
 彼の笑顔にようやくぼくもほっと胸を撫で下ろした。
「そうだ、借りっぱなしだった。銅の剣」

 さっき借りた武器を返そうとすると
「それはお前が持っていろ。棍棒じゃどうしようもない」
 確かに彼の言うとおりだ。
 ……でも、一度も使わないうちに500ゴールドの棍棒がお払い箱だなんて、まったくぼくも間抜けだな。

 自嘲して笑うとぼくは彼を促した。
「それじゃ外に出よう」
「ああ」

 歩き出そうとした、時。
「……っ!」
 リークが突然うずくまる。

「……リーク?」
「カイン、……離れろ」

 苦しそうに呻く彼に、ぼくは言うことを聞かずに駆け寄る。
 リークの首元に何かが張り付いている。
 これは……。

 後ろでぴちゃん、と何かが滴る音がした。
 咄嗟に振り向くと間一髪、ぼくのすれすれのところを「それ」は落ちる。
 慌てて銅の剣を抜き警戒した。

「……囲まれてる」
 そう。
 リークに張り付いているもの、そして今ぼくのそばに落ちたもの。
 バブルスライム、という魔物だ。
 緑色に光るそれは、ヒカリゴケの色とよく似ていた。

「……つけられていた、か?」
 そう小声で呟くと同時にリークは自分に張り付いていたそれを引っぺがす。

「スライム族にそんな知能、あるかな」
 まだ少し顔色の悪い彼にそう声を投げると、リークは鎖鎌を取りだして僕の背中に背中を合わせた。
「無いだろうな。……指図している何かが他に居る可能性がある」
「指図している何か」

 ハーゴンの軍勢?
 いや、ぼくらが旅立ったことを、そしてこんなところに居ることを彼らは知っているだろうか。
 でも知っているかも知れない。
 いやいや、でもそうだとするならムーンブルクを滅ぼしたっていうハーゴン軍だ、後をつけるなんてしなくてもぼくらを襲って一気に殺すことなんて簡単なはずだ。

 ぼくの頭の中身がぐるぐると回転する。
 じゃあこいつらは。
「話は後だ。こいつら程度ならお前も僕がサポートしなくてもいけるだろう、実戦に慣れるいい機会だ」
「ま、頑張ってみる」

 互いに頷くと、ぼくらはバブルスライムを一匹ずつ処理しはじめた。





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□モドル□


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