「あなたなら大層優秀な副神父に……そして後々私の跡継ぎになってくれると思っていたのですが……」
「申し訳ありません」
 そんな会話をして僕はその街を後にした。
 教会の副神父……引いては正神父になるには相当に優秀な人間でなければならないのは周知の事実だ。
 先にも述べたように学院をトップで卒業した僕に、就職の斡旋は引く手数多だった。
 それはもちろん祖国であるサマルトリアからも。
 けれどムーンペタに身を置こうと思ったのも、そして王からのスカウトに迷いなく乗ったのも。
 ……僕には、目的があった。

「あなたは剣を持たなくてもいいのですよ。剣を持つのは騎士の役目。あなたにはその剣を凌ぐ、強力な魔法があるではありませんか」
「でも」
 なおもマリアは抗議の声を上げる。
「ローレシアの、わたしよりお兄ちゃんだっていう王子は、けんが強いって聞いたの」
 首を軽く横に振りながら彼女は続けた。
「わたし、その王子に負けたくない」

 なんとも勝気な少女であることか。
 僕は彼女に、ある女性の面影を見ながら苦笑して、もう一度頭を撫でてやった。
「その王子は……魔法は使えないとの話です。あなたと互角ですよ。きっと」
「そう、かしら……」
 うーんとうなっているマリアを連れて僕は城内の彼女の部屋へと足を向けた。
「そんなことよりもうすぐ今日のお勉強の時間ですよ」
「はーい」

 さきほどまでの悩みもすっと忘れたのか、マリアは顔を僕に向けて小さく笑った。
 部屋の前で下ろしてやる。
 と。
「あのね、アレン様。わたしおねがいがあるの」
「なんでしょう?」
 彼女の手を引き部屋に扉を開けた時。
「わたし、おおきくなったらアレン様のお嫁さんになりたい」

 無邪気な顔でいう彼女の笑顔は。
 僕の、……アレン・ノースアリアの昔の恋人の笑顔と、まったく同じものだった。
「……リーナ」
 思わず口にしたそれをマリアは不思議そうに聞きとがめる。
「リーナ? ううん、わたしはマリアよ。アレン様」

 僕は自分の言葉にハッとして口元を押さえた。
 そうしてから。決まり悪く、彼女を見てから何事もなかった顔に戻す。
「……昔の、知り合いです。何でもありません、さあお勉強しましょう」
「いっぱい勉強しなくちゃ!」

 意気込む彼女とは裏腹に、僕は少しだけ顔を暗くした。
 どうにか悟られないようにと、そればかりで頭をいっぱいにして。







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□モドル□


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