そうだろう。
 まさか僕が、王族に関わってこんなところに居るとは……しかもムーンブルク王家に仕えているとは夢にも思わなかったに違いない。
 固まっているローレシア王を不可思議に思ってか、サマルトリア王が彼の眼前で手を振っていた。

 僕は仕方なしにマリアに手を引かれたまま、彼らの前へとやってくる。
「わたしの先生なの、アレン・ノースアリアさま!」
 マリアに紹介され、軽くお辞儀すると
「ボク、カインです! よろしくおねがいしまーす!」
「わたしはシア!」
 サマルトリアの王子と王女が明るく声をかけてきた。

「こらこらお前たち、愛称ではなくちゃんと名を名乗りなさい。……失礼しましたアレン殿。この子達は私の嫡子、アシュカイナ・アレフとレティシア・リルムです。……私と貴公がお会いするのもずいぶんと久しぶりですな」
 僕は王子と王女に初めまして、と頭を下げるとサマルトリア王に向き直った。
「ええ。大変ご無沙汰しております、トゥーリガル・アレフ王。おかげ様でムーンブルクにて厚い待遇を受けさせていただいております。……湖の洞窟の魔物たちはいかがですか?」

 守番の代わりに魔物を住まわせてある、サマルトリア管理の洞窟。
 そこに、従うように魔術をかけて魔物を配置したのは他ならぬ僕だった。
「そうそう、そのことですがトゥーリガル王。ムーンブルクの支配地である風の塔もそのように魔物に守番をさせたいと考えているのですよ。アレンの力ならば可能なのですな?」
 横からムーンブルク王が口を出す。

 ローレシア王……いや、ローラントを一瞥すると、彼は押し黙ったまま僕らの様子を眺めていた。
 その、時。
 僕の足元にちょろちょろと誰かがやってきた。

 王子だ。
 レイカーリス王子。
 ローラントと……リーナの、息子。
「……、あの」
 言葉を少し溜めてから、彼は僕に声を掛けた。

「どうかなされましたか? レイカーリス王子」
 微笑みながら応えてやると、彼は不思議そうに僕の顔をじっと見つめてくる。
 しばらくして。
「なん、でも、ありません……」
 とだけ弱弱しく言うと、ローラントの元に戻っていってしまう。
 そうしてローラントの手を握った。

 確かまだ5歳のはずだ。
 こんなに幼いのに王家の嫡子としての自覚を持たねばならない……少しだけ、哀れに思う。
 けれども仕方の無いことだ。
 本当なら。
 その悲しげな瞳をしている彼を、抱きしめてやれればよかったのに。
 リーナと同じ瞳を持つ彼を。

「……で、ですなローレシア王、我々としては勇者の泉の洞窟も同じように管理されてはいかがかと思うのです」
「……え、あ」

 話を振られてローラントは意表を突かれた顔をし、慌てて首を振った。
「いえ、……その為には魔物を操る力を持った神官殿が必要なのでしょう? 残念ながらわが国にはそのような伝がありませぬ、これまで通り人間の、高位司祭を守人として就かせておきましょう」

「アレンに頼めばいいものを」
 ムーンブルク王がそう言って苦笑する。
 それから、「アレンと言えば」とレイカーリスに目を向けた。
「王子殿下もアレン、とおっしゃるのですな」

 その言葉にローラントは一瞬だけ顔色を変える。
 だが、すぐに元の色に戻るとすまなそうに頭を下げた。
「第一子にアレフと名づけるというしきたりを破ってしまい大変申し訳ありません」

「いやいや、実は私もそろそろそのしきたりは無くさねば、と思っていたところですよ。何しろ……私自身、その伝統に負い目を感じている。……娘には一応伝統の"ローラ"の名を付けましたが……そろそろ終わりにしても良いと思っているのです」

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□モドル□


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