そう。
 ムーンブルクの現王、レンドルフ・ネイアス・ムーンブルク。
 彼は自分の兄であり、アレフの名を持っていた前王を打ち倒して今の座に就いたのだ。
 特に前王とのしがらみはなかったローラントと、サマルトリアの王トゥーリガルはこれを何事も無く受け入れたとのことだが、もし前王と関わりがあった者がこの場に居れば、聞き捨てならない言葉であるのは明白だった。

「ちょうど私たちの祖父がローレシアを建国して100年目に当たる今年、色々なしきたりを現代風に変えていこうではありませんか!」
 妙にのんきなトゥーリガル王の言葉にも、ローラントは暗く顔を沈ませていた。






 祭りは夜になってもまだ続いていた。
 当然だ、一週間かけて行われる祭りだ。
 普段キリキリ働いている国民たちがゆっくりと酒を口にして過ごせる時でもあった。

 僕は纏いつくマリアを寝かせてやると、与えられた寝室へと廊下を進んでいた。
 等間隔で壁に灯が点してある。
 その、灯りに照らされて、誰かが……僕の行く手を遮っていた。
 小さな人影だ。

 近づいてその顔をはっきりと確かめると……それは、レイカーリスだった。
「王子……こんな夜更けにこんなところを歩いていてはいけませんよ。もうお眠りになる時間では?」
 平静を装って尋ねるが、彼は答えない。
 黙ったまま歩み寄ってきて、足元に来るとじっと僕を見つめた。

「……王子?」
「ぼくは、あなたにどこかで、お会いしませんでしたか?」
 歯切れ悪く尋ねてきたその言葉に、一瞬面食らってしまう。

 会った事は無い。
 彼が王妃の「中」に居た時、僕はムーンペタで過ごしていた。
 ローレシア大陸には一切近寄らなかった。
 そうして彼が生まれてから初めてここへやってきたし、彼もまだ幼すぎるゆえにムーンブルク大陸には渡って来たことはなかったはずだ。
 ……しかし。

 彼が何をもってそう感じたのか、その理由はおぼろげながらもわかっていた。
 だが僕は首を横に振ってみせる。
「いいえ。……僕はあなたがお生まれになってからはじめてここへやって来ました。今日お会いしたのが初めてです」
 その言葉に、彼は酷く落胆したようだった。
 落胆した理由も、彼はきっと自分ではわからないに違いない。

「しつれいいたしました、……おやすみなさい」
 そうたどたどしく言うと彼は僕から背を向け、自室へと下がっていった。
 それと、入れ替わりに。
「アレン」

 後方から声を掛けられる。
 振り向かなくてもわかっている。
 ローレシアの王、ローラントだ。
 いや……。

 今の彼は、ローレシア王として声を掛けたわけではないことも、わかっていた。

次へ



□モドル□


Presented by 小説X ver1.1,