「ものすごい偶然だな。……リークの真名の副名と同じ名前じゃないか。彼と同じ名前……」
「それがね。偶然ではないのですよ」

 男がさもおかしそうに笑う。
 ぼくの頬を冷や汗が伝った。
「偶然じゃない……?」
「リークとはローレシアの王子のことでよろしいでしょうな? ……レイカーリス・アレン・ローレシア。彼の副名、『アレン』は……アレン様のそれと同じものでございます」
「どういう意味だ、わからない、わからないよ、わけがわからない」

 ぼくの頭は混乱する。
 同時にマリアも首を振る。
 マリアにもその辺りの事情はよくわからないらしい。

「その説明は、アレン様ご本人から聞かれるとよろしい。今は……ローレシアの王子の心配をされた方がいいのでは?」
 いわれてはっとする。
 闘技場に目をやると、もうそこには二人はいなかった。
 こうしては居られない、早く追わなくては。

 ぼくが唸っているとマリアが悪魔神官に顔を向け、凛とした声でいった。
「アレン様は……生きてらっしゃるのね」
「はい」

 それを聞いて考え込むように俯く。
 しばらく黙りこんでから、再び顔を上げた。
「……貴方がどういうつもりでここへ現れてそのことを告げたのかはわかりませんが、……ひとまず、私達に危害を加えるつもりではないことはわかりました」
「ええ。貴女様はアレン様が可愛がられた大切なお方。危害を加えるはずなどありませんとも」
「……」

 マリアが冷や汗をかく。
「なら、リークには?」
 そう問われて悪魔神官は黙った。
 詰まったわけじゃない、単に……答える必要はないと言わんばかりの顔。

 でもしばらくすると、彼は口を開いた。
「ローレシアの王子は……『身体』さえあれば構いませんので。死んでいても構わないとのこと」
「身体……?」
 ぼくらは首を傾げるが、彼はそれにはもう完全に答える気がないようで、ぼくらに背を向けてしまった。

「お二人を離して差し上げなさい」
 神官に言われて兵士達がぼくらから手を離す。
 急に離されて、ぼくらは思わずよろけた。

「……では、また後日お会いしましょうローズマリー姫。それまで御身を大事にされますよう」

 そういうと、彼は移動の呪法を唱えたらしく……姿を消した。
 兵士たちも下がっていく。
 ぼくらはぽかんと顔を見合わせてから、思い直して慌てて貴賓室を後にした。



 門前払い。
 字のごとく、ってやつだ。
「明日になってから出直してこい」と城門の守に言われてどうしたものかと考えあぐねる。

「忍び込む?」
「無理よ」
 即答でのマリアの却下に、ぼくは苦笑いした。 

「明日なら会ってくれるってこと?」
「そうでしょうね。……でも、どうしてかしら」
「リークを今夜中に返してくれるつもりはないってことかな」
「恐らくそうだと思うけれど、……」

 マリアは眉を顰めると、城を見上げた。
「……嫌な予感がするの」

 マリアは魔法に長けているだけあって、……というよりも、女性としての勘なのか。
 不安げな表情をするマリアにつられて、ぼくの心も何かどす黒いものに覆われていった。 

その3へつづく



□モドル□


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