「ローレシアのレイカーリス・アレン王子が参られました、フレディオス陛下」
 侍女の言葉に部屋の豪奢なベッドでくつろぎ、果物を口にしていた王はほくそ笑む。
 わかっているのだ、自分の力がなければ彼らがこれから困るということは。
「通してくれ」



 侍女に命じてから少し経って、僕は中に通された。
 恭しく一礼するとやや虚ろな目で王に顔を向ける。

「ようやっと自分の立場がわかったんだね……リーク。ようこそ俺の部屋に」
 この男にこの名を呼ばれることに心の底から嫌悪を感じる。
「……どうにも。いまだに王が本気でおっしゃられているとは信じがたいのですが」
 フレッドは立ちあがると、呆れ交じりにいう僕のそばへ歩み寄ってくる。
 そうして顎に手を当てて自分へと改めて向けさせた。
 再び身体が強張り、鳥肌が立つのを感じるが今度はどうにか踏ん張ってみる。
 片手で軽くその手を押して払うと、僕は相手をまっすぐに見つめた。

「本気なのはわかりました。……ここからは交渉です、王」
「ほう」
 手を下ろすと彼は聞く体制に入った。

「私達は貴方の王家が持つ『月の紋章』を求めています。それがなければ旅は手詰まりです。これ以上進むことが出来ません。命に代えても手に入れなければならないものです……だからその為にあの恐ろしい豹と戦いました。……しかし、先ほどの貴方の発言によると、私が貴方の言うことを聞かなければ紋章はいただけないような表現をしていた。あの発言にどういう意図があったのかをまず伺いたいのです」

「言葉通りだ」
 僕のセリフを鼻で笑うと、フレディオスは背を向けながら言った。
「父上が君たちとどういう約束をしたかは知らない。だけど、……この国では強い者が正義。それは何度も言っている通りだ。それはわかるね?」

 僕が頷くのを確認にするとフレディオスは続ける。
「何も結婚しろといっているんじゃない。一度味わってみたいだけだ、君ほどの力の持ち主の身体を」

 ぞわぞわと背筋が寒くなるのを感じながら、僕は気持ちを奮い立たせてきっぱりと言った。
「強い者が正義。ならば……こうしてはいただけませんか? 明日、貴方との公式試合を行わせていただきたい。それに私が勝てば紋章も鎧も頂く。逆に私が負ければ……貴方の言うことを何でも聞きます」
 その提案にふむ、と鼻を鳴らすとフレディオスは顎に手を当てて思案した。
「なるほど……悪くはない条件だ。君がいくら強かろうと、俺は負ける気はしない。お楽しみが一日延びてしまうが仕方がない」
 笑みを洩らして彼はもう一度僕の顎を捕らえた。
「楽しみにしているよ。明日の夜、このベッドで君と絡みあえるのを」

 一瞬にしてに身体中が総毛立つ。
 本当に……本当に気色悪い、自分で持ちだした明日の試合だが、それすらもボイコットしたいレベルに嫌だ、嫌だ、嫌だ。
 その気持ちを深呼吸してどうにか押し殺すと僕は相手の手を払って一礼し、
「明日の試合……どうぞよろしくお願いいたします」
 部屋を立ち去った。

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□モドル□


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