「たった一晩抱かれればそれですんだものを。『何でも言うことを聞く』だって? 力はあるようだが……愚かだな、ロトの子孫の王子」
 りんごを一つ手に取ると一気に握り潰す。
 握りつぶした拳から汁が滴った。
「いいだろう、紋章がなければどうせ旅は終わるんだろうしな。俺の言うことを全て聞いてもらおうじゃないか」
「フレディオス王」

 部屋の隅に。
 唐突に魔法陣が描かれ、その光の中から何者かが現れた。
 フレッドはそちらに視線をやると興味なさげにベッドに戻る。
「貴様か」
 ローブを身にまとった人間が一人立っていた。
 いや……人の姿をした魔物、といった方が正しいのかも知れない。
 魔物としては悪魔神官と呼ばれる種族だが……元々は普通の人間で、闇に身を落として闇の魔術を扱えるようになった者だった。
 彼はその中でも地位の高い者で、ハーゴンにかなり近い位置で働いているという。

「明日の試合、力をお貸しします」
「ふん……貴様の力などいらんが万が一ということもあるしな。ローレシア王国王太子の馬鹿力ぶりは天下に轟いている。まさかあんな少年がそうだとは夢にも思わなかったが」
 フレッドが謳っている「誰よりも強い王」。
 これは、この悪魔神官が裏で操っている為、他ならなかった。




 ぼくらの待つ宿に一目散に戻って来ると、リークは慌てて剣の整備をはじめた。
 ロトの剣がきらりと輝くげど、更に丁寧に磨き始める。
 のんきに風呂から戻ってきたぼくはその鬼気迫る様子に目を丸くした。
「ど、どうしたのリーク」
「明日……フレディオス王と試合をすることになった。それに勝てば何事もなく紋章も鎧も貰える」
「ほ、ほんと!?」
 顔を明るくして身を乗り出してみる。
 リークは剣を磨く手を止めると、ひとつ、大きなため息を洩らした。
「ただ、少し不安要素があるんだ。どうにもあの王……怪しい。まともに勝負すれば勝つ自信はあるが、何か企んでいる予感がする。あの自信の持ちようは異様だった」
「なるほど、ね……。力が正義のこの国だもんな。前王より強いことを卑怯な手段を使ってでも見せつけて、若いうちに王位を継いだってわけだ」
「しかも責任問題はすべて前王を隠れ蓑にしてやりたい放題だ」

 ぼくらの意見が合致したその時、マリアが入ってきた。
 彼女も風呂に入っていたみたいでガウンに着替えてる。
「おかえりなさいリーク。……無事だった?」
 それを聞いてぼくは思わず「ぶっ」と吹き出し、慌てて両手で口元を押さえた。
 リークがじろりと睨んでくる。
 が、気を取り直して彼はマリアに顔を向けた。
「まあな。……明日、彼と試合をする。この国のルールに乗っ取っているなら文句は言えないだろう? それに勝てばすべてが丸く収まる、……のだけれど。それについて今、カインと話していたところだ」

 ぼくは話を振られて今の話をかいつまんで説明した。
 なるほど、とマリアは頷くと壁に立てかけてあった杖を手にした。
「気づかれないように……魔法で補助しましょうか」
「魔法で補助……か」
 卑怯な手を使えっていうことだ。

 確かに、そこまでして勝たなきゃならない試合ではあるんだけど……それが発覚した場合が恐ろしい。
 マリアほどの使い手なら発覚させずに上手く操ることも出来るかも知れないけれど……。
「微妙なところ、だね……魔法に関する監視を付けてる可能性もなくはないし」
 ぼくの言葉にリークは頷く。
「とりあえず普通に戦ってみる。ただ、相手が正々堂々と来ない恐れがある、その時は手助けを頼む」
「了解」
「OK」

 その夜。
 リークは遅くまで、外で剣の素振りをしていた。

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□モドル□


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