例えば力づくで紋章を奪って逃げる、などの算段を考えていたがそれすらも許してくれないらしい。
 どうにも姑息な男だ。
 だが、しかし……。
 いくらなんでも用意周到すぎではないだろうか。
 やはり裏に何かがある。
 僕は背中に吊るしている剣に手をかけると、すらりと引き抜いて睨みながら身構えた。

「ロト三国をデルコンダルの属国にする、ということですね……つまりは」
「ご名答」
 相手も腰の剣を引き抜いて身構えた。
 長剣だ、僕の剣の1.5倍はある。
 やや不利か、と僕は舌打ちする。

 だが剣のリーチなどは技術で補える。
 問題はどちらが素早く動けるか、だ。
「……そうやって奴隷や属国を増やしてきたのですか」
「そう。だから我が国はこれだけ強大になれた」

 同時に試合開始の合図が出された。
 相手の出方を待って様子を見る。
 じり、と一歩進めば相手が一歩後退し、相手が一歩出ればこちらは一歩後退する。
 緊張の汗が頬を伝った。

 それがぽたりと地面に落ちると同時に、相手が動いた。
 相手が切りかかってきたのを剣で受け止めた際に大きな金属音が響き、すぐさま横に払うとフレディオスは刀を返して横殴りに斬り込んできた。
 僕はかわそうと逆に跳び、すぐさま向き直って剣を上段に振りかぶる。
 勝つも負けるもない、殺し合いだ。
 そう思った。
 相手を殺すつもりで行かねば、この戦士には勝てそうもない。
「だぁ!!」

 振り下ろした剣は相手の脳天を直撃した。
 ……かに見えた。
 だが手ごたえはなく、彼の身体はそのまま掻き消える。
 幻影?
 しかし相手も魔法は使えないはずだ、一体どうやって?

「……、魔法剣か!」
 相手が何をしたのかに気づいた。
 魔術を扱うことの出来ない者のために、魔力を込めた代物が世の中にはある。
「光の剣」はその一種で、マヌーサと同じ幻を見せる魔力が込められていたはずだ。彼はそれを使ったのだ。
 掻き消えたフレディオスの姿はもやとなって僕を覆った。

 どこだ、どこに居る。
 目に頼れないのなら音と気配で感じ取るしかない。
 僕は目を閉じて相手の気配を探った。
「……そこ!」
 左からの気配に、剣を突き出す。

 読みは当たっていた、が、呆気なくかわされてしまった。
「幻影の霧のおかげで動きも鈍っているようだな」
 肩口を切り裂かれる。
 ……本当なら今の一撃で首を切られて即死していてもおかしくなかった。
 嬲るつもりでいるのか。

 それにしてもおかしい、幻影のせいだけでは絶対にない。
 相手の動きは素早すぎる。
 それにたまに剣が当たってもあまりいい手ごたえが得られない、防御魔法スクルトで身を固めている時のようだ。
 そして、相手の一撃が当たった時のダメージがあり得ないほどの強烈さ。
 これは、まさか、……。

「貴様、……補助魔法をかけられているだろう! 試合開始前から補助魔法を、しかも選手外の者にかけさせているのは規定違反だぞ!」
「ほう? なら、何の魔法か当ててもらおうじゃないか」
 フレディオスがいうと同時に首元に剣が当てられた。
 僕は動きを止めて相手の次の出方を見る。

「防御の呪法、スクルト……それだけはわかった。だが他がわからない……」
「わからないのに魔法などと。私の力が君より元から上だったとは考えないのかね。それに、スクルトをかけられているという根拠は?」

 ない。
 手ごたえでそう感じただけだ。
 僕は歯ぎしりをし、剣を落として両手を上げた。
「……僕の負けだ」
 その言葉に満足げに笑うとフレディオスは剣を下ろした。
 その刹那。

「たぁっ!!」
 僕は叫び声とともに彼に全力で体当たりした。
 勢いでフレディオスの身体が飛ぶ。
 同時に、剣を取り落としてしまった。
 地面に倒れ込み、慌てて起き上ろうとするフレディオスの喉元に、僕はすばやく彼の落とした剣を拾って切っ先を当てた。

「……私の勝ちですね。陛下」
「な……」

 完全なる油断だった。
 僕が口元で笑むのを見ると今度はフレディオスが歯ぎしりする番だった。
 もう、フレディオスが挽回する気配はない。
 そう思って審判が僕の勝ちを宣告しようとした時。

次へ



□モドル□


Presented by 小説X ver1.1,