突然、リークがその場に倒れた。

「!!」
 ぼくとマリアは驚いて身を乗り出し、窓に張り付く。
 何なんだ、何が起こったんだ。
 ややあってからフレッド王が立ち上がると、審判は王の勝ちを宣告した。

 一斉に客席から歓声が上がる。
 ぼくらは顔を見合わせてからコロシアムへ降りようと、部屋の出口へ足を向けた。
 けど、身体の大きな兵二人が出口を塞いでいる。

「どいて下さい! 今の試合は何かおかしかった! 検証させてください!」
 叫んだものの、兵士は聞かないどころか、いきなりぼくらの腕を掴みあげた。
「いつっ……」
 あまりの乱暴さにマリアが声を洩らす。

「何をするんだ! 一体何がどうなってるんだ!!」 
 ぼくは暴れてコロシアムに目をやると、フレッドがリークを肩に担ぎあげて退場する様子が見えた。
「リークに何をした!」
「王子ともあろうお方が少し取り乱し過ぎではありませんかな」

 ふいに兵士たちの後ろから声がした。
 ぼくらが驚いて目をやると、中年の神官然とした男が一人現れる。
 口元に浮かべる厭らしい笑みに、ぼくは背筋が凍りつくのを感じた。
「貴方は」
 マリアの短い問いに男はくつくつと笑うと、恭しく礼をする。

「ご無沙汰しております、ローズマリー・ローラ姫殿下。ムーンブルク城が落城して以来……ですかな」
 その言葉にマリアは身を総毛立たせた。
 男を険しく睨みつけると「まさか……」と小さく唸る。

「……あの時お父様を殺した、悪魔神官……」

 マリアが自分の正体に気づいたことに一層嬉しそうに笑むと、男は兵士に取り押さえられているままのマリアに歩み寄ってきて頬に指を滑らせた。
 その心地悪さにマリアは首を振る。
「アレン様が貴女様をずっと探しておりましてな」

「アレン?」
 会話を聞いていてぼくは横から口を出した。
 アレン。
 どこかで聞いた名だ。
 しかし、それとは別の心当たりがあるようで、マリアはがくがくと震えだした。

「アレン様は、……お亡くなりになられたのでは」
「いいえ。とある場所で貴女をずっとお待ちですよ。大層貴女のことを気にかけておられましてな」
 男が言葉を紡ぐごとに、マリアの顔から血の気が引いていくのがわかる。
 アレンって一体何者だ?
 ぼくは状況が理解出来ないまま黙って聞いていた。

「そんな、そんな、……そんなそんなそんな!! アレン様、ああ、そうだあのお方の名は、確かに、……今まで一致すると考えたくなくてわざと記憶を封印していた。あの方は亡くなったはずだと、そんなはずはないと、でも、……では、やはりアレン様は……」
「貴女のご推測通りでございますよ」

「マリア、……アレンっていうのは何者?」
 思わず口を出してしまう。
 瞳を歪めてマリアはぼくに顔を向けた。
 今にも泣き出しそうだ。

「10年ほど前までムーンブルクの王室付きで仕えていた神官様で、私の良き遊び相手だったお方……ところがある日突然居なくなってしまって……お父様からは、亡くなったとだけ聞かされたの……今思えば葬式もなかったからおかしいはずだったのだけれど、当時は幼かったからそこまで考えがまわらなかった……」

「そうです」
 男がマリアの話の続きを語る様に、言った。
「アレン・ノースアリア。ムーンブルク王の謀略により、反逆者として国を追われたお方です」

 その瞬間にぼくは「もう一人のアレン」を思い出した。
 そうだ、居たじゃないか、ものすごく身近に。
 マリアが初めて彼に出会った時に彼の名に反応したのは、そういうわけだったのか……。

次へ



□モドル□


Presented by 小説X ver1.1,