そういうとぼくは、リークを手招きした。 隣に座る彼から汗のにおいがする。 さっきまで素振りをしてたんだから当然だ。 「明日は勝つから」 リークがいうけどぼくの耳にはそれは入らず、ただ、口元をじっと眺めていた。 ぼくの様子に気づいてリークが首を傾げる。
「……カイン?」 「あ、あのさ、聞けなかった、けど……。フレッド王に何もされてない、よな」 言われてリークは、ああ、と頷いた。 「多少顎に触れられた程度だ。まったくといっていいほど何もされていない」
良かった、と。 そこで安心して終わりにすればよかったのに。 その「顎に触れた」という事実にすらイラッとしてしまった自分がいた。 下心のある人間が顎に触れるということは、次の段階は大抵はキスなわけで。 危うくそれは逃れたみたいだけどもしされていたら後はどうなっていたかわからない……。
そう考えると居てもたっても居られなくなって、ぼくの頭は次のステップに進んでいた。
「……される前にする」 「は?」 ぼくが何を言ったのか聞き取れなかったようでリークがぽかんとする。 「聞こえなかったのか、される前にするっていったんだ! リークはちょっと世間知らずだから、何かモーションかけられるだけですぐそっちにころっと行くやつだろ! だからそうなる前にすることしておく!」 その言葉にリークは驚いたようで目を丸くしていたが、やがて怒ったように睨んできた。 「信用がない、と」 「……いや、その」 「僕がお前を好きだということに対する信用がまるでないんだな。……あの気色の悪いフレディオス王に、ちょっと何かされたらすぐになびくとそう考えたわけだ」
それは正解なんですが、その……。 信用してないといわれると言葉に詰まってしまう。 第一、こいつはあんまりぼくのこと好きじゃないんじゃないのかな、なんて時々考えてしまうくらいなのだ。 ぼくにそういう感情を持ったのは単なる刷り込み現象なんじゃとさえ思えてしまう。
「……正直にいうと君がぼくを好きだって自信が、ない」 ぼくがはっきりというとリークを眉尻を下げた。 ぼくは続けた。 「君はマリアもぼくも平等な扱いをするし、……それはパーティのリーダーとして正しいことだからいいんだけどさ。だけど、ほんのちょっとだけぼくにマリアとは違うんだよってところを見せてくれることもない。でもってぼくに抱かれてくれないし、いつまで経っても」 「それは、だから……」 リークは困った顔をする。
ぼくは。 リークの頬に両手を添えると、引き寄せて口付けた。 最初は驚いていたリークだったけど、そのうち大人しくなる。 しばらく唇を合わせていたぼくらは、ようやっと離れると息を吸い込んだ。 それから額と額をこつんと合わせてみる。
「……リークはマリアのことも好きなんだもんな。仕方ないよなあ」 言われてリークが慌てふためいた。 「何を、いって」 「知ってる。……ぼくが、君の事をどれだけ好きだと思ってるんだよ。君がぼくとマリアを同じくらい、恋愛の意味で好きだと思ってることは見ててわかる。だから、悔しいんだ。だけどそれを君は変える必要は無いよ。……ぼくはマリアとならうまくやっていける。もし君がマリアを選ぶなら喜んで祝福するし、ぼくを選んでくれるならそこであえて身を引いたりとか偽善的なことは考えない、君を手に入れる。だけどさ、……だけど、ぼくでもマリアでもない相手を選ぶのだけは、嫌だ……」
次へ
|