背後から、突然の声。
 振り向くと建物の陰の小道に、フードを纏って顔を隠している人が一人。
 今の声はこの人?
 男性にしては高めの声だし、女性にしては低い声を出した相手の性別が判断できなかったぼくは、マリアと顔を見合わせてから相手に近寄った。

「……協力、とは」
「私も"あれ"のやることにはほとほと愛想が尽きた。無理やりに作った奴隷剣士でコロシアムを楽しむなど愚の骨頂。……己の鍛練の成果を自ら皆に知らしめたい、そういう者を集めればすむ話だろう。そうは思わないか?」

 その人のいうことはもっともだけれど……なんでそんな話を、いや、その前に……ぼくらの会話を聞かれていた?
「あの……失礼ですが、どなたでしょうか」

 ぼくが戸惑いながら尋ねると、相手は路地裏に手招きした。
 ぼくらは再び顔を見合わせてから、意を決してついていくことにする。

 暗い袋小路にやってくると、相手はようやく振り向いてフードをはずした。
 そこには長く美しい、亜麻色の髪。
 ポニーテールに結い上げたそれは少しウェーブがかかっていて……マリアのそれに勝るとも劣らない美しさにぼくは呆気に取られた。

 いや。
 それ以上に、驚くことがある。
 女性なんだろうということはわかった。
 わかったけど、……彼女のこの、「顔」は。
「貴女は、……」
 マリアも息を飲む。

 ぼくらの様子にその女性は口元で小さく笑った。
「やはり気づいたか。……そうだ。私はデルコンダルの公爵家にして元、王女……。現王のフレディオスの……双子の妹だ」
「双子の妹……」

 血縁者だとしてもあまりにも似すぎていたので、少し混乱しかかっていたぼくの頭は「双子」の単語でどうにか纏まりがついた。
 それにしても妹。
 あのフレッド王に妹がいたなんて。
 マリアは頷くと彼女に歩み寄る。
「わたくしはムーンブルクの王女、ローズマリー・ローラと申します。貴女のお兄様においては大変お世話になりました」

 マリアの物言いに皮肉めいたものを感じる。
 それは公女も同じだったようで、おかしそうに小さく笑った。
「丁寧なご挨拶を。……私はフレディオス・アル・ロワイエルの妹、ミレディアナ・ルル・ブライセル。ミレディでいい。よろしく」
 そういうとぼくらに向けて握手を求めてきた。
 マリアが警戒心満々にしながら握手をかわす。

 おっと、とぼくも名乗らなきゃと思って前に出ると。
「貴殿はアシュカイナ・アレフ王子だな。よろしく」
 相手に先に言われてしまった。
「はは、すみません……サマルトリアの第一王子です。よろしくお願いします。あ、ぼくのことはカイン、で」
 軽く礼をしながら握手をかわす。

 女性とは思えないほどの力強さで、思わず目を丸くすると彼女はおかしそうに笑った。
 マリアはすごく警戒してるけど……ぼくは、彼女があまり悪い人には思えなかった。
 どうしてだろう。
 こんなにもフレッド王に似てるのに。

「それで、……協力してくださる、とは?」
 マリアに問われてミレディは頷いた。
「レイカーリス王子を救おうというのだろう? ……あの兄には一度痛い目を見せないとわからない。だが私一人では少々足踏みするところがあってな。貴方達の協力が得られるなら、互いに利害が一致すると判断した」
「ふむふむ……」
 ぼくはうなずいて顎に手を当て、考え込む。

 マリアは少し低めの声で、相手に向いて言った。
「わたくし達から救出計画の内容を聞きだして、貴女のお兄様に密告しようとしている可能性は? そうではないと証明できますか?」
 言われてミレディは視線をそらし、考え込む。
 なるほどそっちには頭が回らなかった。

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□モドル□


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