ぼくは慌てて両手を振った。
 マリアがまた一層険しい表情になる。
「念の為伺います……。スパイ等を立てられていないと、誓えますか」
「スパイ」

 何のことやら、という顔をしている彼女はしばらくしてからピンと来たようだった。
「……私の拳に懸けて」
 それを聞いてマリアは首を横に振ると考え込む仕草をとった。

 ぼくはそんなマリアを横目に、荷物袋から一枚のマントを取り出す。
「びっくりしました……ぼくらの考えてたこととほぼ同じです。ただ、リークのことだからあっという間に試合が終わっちゃってタイミングが難しいんじゃないかって話してたんだけど……ミレディ公女の協力が得られるなら確実にうまくいくと思います」
 ぼくの取りだしたマントに公女は目を走らせ、それから満足そうに頷いた。

「なるほど、風のマントか。それがあれば地面に叩きつけられる心配はない」
「カイン!」

 マリアが怒ったようにぼくの肩を掴んだ。
 ぼくがべらべらしゃべったことに困惑しているみたいだ。
 ぼくは眉を下げてから笑うと、その手を下ろさせて軽く握ってやった。

「……ただ、公女。ぼくからも一つお願いがあります。ぼくらのことを裏切らない、という誓いの証が欲しいんです。貴女の何かをぼくらに懸けていただけませんか」
 ぼくのセリフを聞いてマリアはようやっと落ち着きを取り戻した顔になる。

 ミレディは、「私の拳では不服のようだ」とだけいうとぼくに歩み寄ってきた。
 そのままものすごく至近距離にやってくる。
 何だろう、と思う間もなく。

 次の瞬間、ぼくの唇を何かで塞がれたのがわかった。
 最初は何だろうこの柔らかいもの、と思ったけど。

 マリアが大声で何かを叫んだのを聞いてから、はっとした。
 目の前にはミレディ公女の顔。
 しばらくしてから顔が離れる。

 ぼくは息苦しくなって、ふら、と後ずさった。
 ふとマリアに目をやると、これ以上ないくらいに真っ赤になって怒った顔をしている。
 今にも泣きそう、というくらいに。
「マリア……?」

「結局、……貴女もフレディオス王と同じではありませんか! 信用したわたくしが愚かでした!」
 掴みかからんばかりの勢いでマリアが叫ぶ。
 でも、ミレディは眉尻を下げて微笑すると首を横に振った。
「すまない、……異性に唇を捧げるというのは我が国で、命を捧げると同義なのだ」
「そんなこと……、っ」

 なんでこんなことに。
 ぼくはパニックして二の句を告げなかった。

「わたくし達の国では、それは愛情の証であり、命を捧げるのとは、意味合いが……」
「……なら。貴女達の国のそれに従い、愛情も同時に誓おう」

 は?
 はい?
 何?

 ぼくはまだ口が利けず、目をしばたかせて二人のやりとりを眺める。
 マリアは拳を震わせていたけど、やがて諦めたように深いため息を洩らした。
「理解、しました……。フレディオス王がリークを狙っていたように、貴女の狙いはカインだったのですね。だからカインの名も知っていたしカインが移動の術式を扱えることなど下調べ済みだった」
 マリアの言葉にぼくは驚いて公女を見た。

 公女は考えあぐねた表情をしてから……、今度はマリアを抱き締めた。
 マリアは動揺して、びくり、と肩を揺らす。

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□モドル□


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