コロシアムの門前に貼り出された試合表を眺めてぼくとマリアは顔を見合わせる。
 公女の名前もリークの名前もどこにもない。
 どういうことだろう。

 二人で悩んでいると、ふいに後ろから小声で声を掛けられた。
「手はず通り頼む」
 はっとして振り向くと、昨日のようにフードを目元まで深く被った……ミレディ公女その人がそこに居た。
 マリアが慌てて縋るように声を上げる。

「試合表に貴女のお名前も、レイカーリスの名前も……見当たらないように思うのですが」
 するとミレディはこくりと頷いた。
「偽名で申し込んである。最初の試合の"セレナード"というのが、それだ。……レイカーリス王子の名も恐らくは偽名なのだろう、いくらなんでも他国の王子と同姓同名の者が奴隷剣士として出場していてはまずいと考えたのだろうな。何しろ単に名が同じであるだけでなく……本人なのだから」
「なるほど……」

 納得してぼくは頷く。
 マリアが不安そうな顔をしてるけど、背中を軽く叩いて宥めてやった。
 だけどマリアはなおも彼女に食い下がる。
「相手が偽名で、どうしてレイカーリスが貴女の対戦相手だとわかったのです」

 それを言われてミレディは少し黙り込んだ。
 しばらくして。
「……兄の動向を探るために、城には常日頃スパイを入れてある……。プログラムを決める者に賄賂を贈って籤を操作させた」

 その言葉にマリアはようやく公女から体を離した。
 でも、今度はぼくの頭に疑問符が浮かぶ番だった。
 この兄妹……どうしてこんなに仲が悪いんだろう。
 ミレディは王のやってることが目に余ってる、ようだけど……スパイを差し向けて動向を探るほどの関係?
 とりあえずわかることは、公女が直接文句言ってもあの王様はたぶん聞いてくれないんだろうなってことだけだった。

 あの性格なら、そりゃそうだよな……。

 でもまあ、今はそれはいいや。
「わかりました、……ところで一つだけ伺ってもいいでしょうか」
 ぼくの言葉に頷いたのを確認して、ぼくは続けた。
「……どうしてここまでしてくれるんですか?」

 それを聞いて公女が自嘲気味に笑った。
「……兄との確執がある……それを貴方がたに話している時間が今は無い。いずれ、時を見て。一つだけ言えることは」
 そこまで話して、公女が一旦話を止める。
 暗い表情。
 ぼくは黙って先を促した。
 やや、あって。

「……私はいつか、兄をこの手で殺さねばならないから」
 それだけぽつりというと、踵を返してその場から立ち去った。
 兄妹で殺しあう……。
 どうしてそんなことをしなければならないのかわからなかったけれど。
 サマルトリアでは絶対にあり得ないような、悲しい事が彼等の間に起こっているんだろうってことだけは汲み取れた。
 それはひょっとしてローレシア王弟の謀反と言われているそれと似ているのかも知れない。

 ぽかん、と見送るマリアの手を取るとぼくは決心して、
「行こう。始まるよ」
 マリアの手を引いた。

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□モドル□


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