ぼくの言葉にマリアは力強く頷くと、二人でフェンスに手を掛けた。 よいしょ、よいしょ、と登り始めるけど試合に夢中になっている周りの人は気にしてない、思った通りだ。 最もそれは美しい試合を展開してくれている彼らの試合だからこそ、かも知れない。
フェンスの一番上までよじ登ると、ぼくはマリアの手をしっかりと握って彼女の身体を引きあげ。 目で「行くよ」と合図して……一気に、試合場へ向けて飛び降りた。
ひょっとして。 興奮しすぎて試合場へ降りようとする客は珍しくないのかも知れない、客の野次が耳に飛び込んで来た。 「まーた降りようとしてるバカがいるぞ!」 「やれやれ! 殺し合え!」
たぶん降りた客が試合に乱入して、歴戦の勇者相手に殺される、そんなことが茶飯事なんだろうことが伺えた。 けれど。 その野次に一も二もなく反応したのは……やはりといえばやはり、彼だった。 デルコンダルの王、フレッド。
風のマントでふわりとゆっくり下りながら、ぼくは王の席に目を向ける。 相変わらずそこには死んだようにやる気を失っている前王と……そして、あの、憎たらしいフレッドが座っていた。 フレッドはぼくらの姿に驚いて目を見張っている。 もうとっくに出て行ったと思っていたのか、それとも。
……ぼくらがここに現れるのを予測していたのか。
ぼくは、はっきりと見た。 ぼくらを見て、彼が口元で笑むのを。
試合場に降り立ったぼくとマリアの姿を見て、リークとミレディが動きを止めた。 ミレディはぼくに向けてこくり、と頷いて見せる。 僕も合わせて頷くと、マリアの手を引いてリークへと駆け寄った。 会場は試合が止まってしまった様子にざわめきたっている、当然だ。 リークは驚きの瞳でぼくらを見ていた。
「お前達、……どうして」 久しぶりのリークの顔に、ぼくは思わず涙ぐんでしまう。 会えなかったのはたった二晩のことなのに。 まるで何カ月も逢っていなかったかのように感じる……。
「……リーク、……助けに来たよ!」 ぼくはそういって彼の手を掴んで引き寄せた。 リークはまだ状況が飲み込めないようで手を引かれながらぽかんとしている。
その、時。 鉄扉からデルコンダルの兵士達が入ってきた。 フレッドが立ちあがり、叫ぶ。 「反逆者を捕らえろ!」
その合図に兵士達が一斉に向かってきた。 ミレディが、剣を掲げて叫ぶ。 「静まれ! 私はデルコンダルが公女、ミレディアナ・ルル・ブライセル!」
叫ぶと同時にミレディはマスクを取り去った。 名前を聞いて兵士たちは慌てて足を止め……彼女の顔を見つめた。 「……ミレディアナ様、貴女様がなぜこのような試合に」 隊長らしき男が唖然として尋ねる。
それにミレディは答えようとした刹那、フレッドが横槍を入れた。 「知れたこと。その女は謀反を起こそうとしていたのだ! この試合に優勝することによって王直々に褒美を与えるその隙を狙い、私を暗殺しようと画策していた。今乱入した二人もルルの手の者だ! 捕らえよ!」 「ふざけるなアル! 貴様が悪魔神官と手を結んでこの国のまつりごとを牛耳っていたこと、白を切るつもりか!」
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