ミレディの発した言葉に一同がざわめく。
 曲がりなりにもデルコンダルはルビスの眷族神を信仰している国のはず、それが邪教の信徒と手を組んでいたのが事実だとしたら……とんでもない話だ。
 兄との確執っていうのはそれだったのか……。
 ぼくは驚いてミレディとフレッドを交互に見る。
 フレッドは憎々しげにぼくらを見下ろしていた。

「……戯言を。そのような話誰が信じるというのか」
「証人も証拠も用意してある。私が何も用意せずに貴様を討とうと考えると思うか!」
 力強いミレディの言葉、彼女が本当に兄である彼を倒そうとしていたのは確かなようで……。
 二人の間で兵士たちは困ったように動きを止めていた。

 ミレディがぼくに向き直る。
「カイン殿! ルーラを!」
「あ、は、はい」

 言われてぼくは慌てて魔法陣を紡ぎ始める。
 その魔法陣の形を目で追っていたマリアが不思議そうに首を傾げた。
 けれど、ぼくが目で「黙って」と合図を送るとそれ以上何も口にしない。

 フレッドはぼくらのやりとりを見ていて鼻で笑った。
「ルーラの魔法で逃げ出す算段か、……なるほどな」
 それから、天井を指す。
 吹き抜けの天井に目を凝らして見れば、そこには何かが張り巡らされているのが見えた。

「馬鹿な奴らだ、この闘技場はな。そのようにルーラやキメラの翼を使って試合途中で逃げ出す輩を見越して、天井に網を張ってある。ルーラはある程度の高さまで飛ばなければルビスの帯には辿りつけないはずだ。違うか?」

 なるほど、そういう仕掛けなのか。
 彼の言うことはもっともで、空中のどこかの高さの位置……最もその高さっていうのは場所によってまちまちで、何メートルとかははっきり言えないんだけど……に、ルーラを唱えた際に利用できる軌道が存在している。
 見えない空中トンネルみたいなものだ、それが「ルビスの帯」って呼ばれてて、それに乗れるとぼくらは別の街へワープ出来る。
 ルーラという魔法は実のところそのルビスの帯まで飛ぶための魔法、とも言えるわけだ。

 だけど。
 ぼくは魔法陣を描き切って、そこに掌を当てた。
「ぼく……屋内でルーラの用意するほど間抜けじゃないんだよね、残念ながら」
 そう言って微笑むぼくの姿をフレッドは訝しげに見つめる。

「大地の精霊神ルビスよ、その暖かなる両の掌に我らを包みたまえ。我らが身、光りある大地へ!」
「その魔法は……」

 ミレディとリークが同時に唸る。
 その、瞬間。
 手を取り合っていたぼくとマリア、そしてリークの身体の周りを光りが取り囲み始めた。
 フレッドが気づいて片手を大きく振る。

「リレミトの魔法だ! 早く捕らえろ!」
 その言葉に兵士たちは少し迷いを見せてから、ぼくらに掛かってきた。
 けれどそこにミレディが立ちふさがる。
 それから、ぼくらに……いや、ぼくに向かって振り向いた。

「達者で……カイン」
 何だろう。
 覚悟を決めた瞳……というよりも。
 何か切なげな光を見せたその瞳に、ぼくは胸をずきんと痛めた。
 けれどその次の瞬間、目の前が光に包まれて真っ白になった。

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□モドル□


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