……気が付くと。
 ぼくらの姿は、闘技場の門の前にあった。
 マリアがぼくとリークの手を掴んで引っ張り、走る様に促す。
「港へ急ぎましょう、追手が来る!」

 ぼくはまだ少し弱っているリークの肩を支えると、慌てて走り出した。
 今こそルーラで逃げればよかったのかも知れない。
 でもリークの弱りようを見ると、ルーラで飛んで果たしてもつんだろうか、という疑問がある。
 出来れば船に飛び乗ってそこで休ませながら次の土地へ向かいたい。

 マリアもそれはわかってるんだろう、ぼくにルーラを使うように勧めては来なかった。
 兵士達は全員闘技場に集められていたらしいのが幸いだった、出てくるまでに少し時間があるみたいだ。

 それでもリークの肩を担ぎながら走っているからかなりのろい。
 ぼくが息を切らせながら走っていると、リークが顔をあげてぼくを見た。
「……大丈夫、自分で走れる。……急ごう」

 そう言われてぼくは彼から離れる。
 3人で勢い切って走り始める、途中マリアの息が上がったのでぼくはすぐさまホイミを唱えた。

 船に乗り込んで桟橋に渡してあった板を引き上げる。
 これで兵士達が追いついてきても乗り込んでは来られない。
 錨を上げ始めた頃、ようやく兵士たちは追いついてきてぼくらの船を取り囲んだ。

 どう出るかと見守っていたら……。
 さっきの隊長らしき人が一歩前に出てきて、言った。
「大変な無礼をいたしました、サマルトリア王太子殿下。そして……ムーンブルク王太女殿下、ローレシア王太子殿下。……時に、先ほどミレディアナ様がおっしゃっていたことは……真なのでしょうか」
「王が悪魔神官と手を結んでるって話ですか?」

 ぼくの問いに隊長は頷く。
 そう言われても、ぼくはそんなこと知らない……何も聞かされてない。
 だけど、ああそうか、リークと王の試合が終わったあの時。

 ぼくらがリークのところへ行くのを邪魔した、マリアの城を滅ぼしたというあの男。
 あいつが、そうか……王と手を結んでたっていう悪魔神官だっていうならすべてのつじつまが合う。
 あの時の試合がおかしかったことも、全て。

 ぼくが答えようとした時、リークが前に出てきた。
「公女の言うとおりだ……彼は悪魔神官と裏で繋がり、政治を動かしてきた」
 それを聞いて隊長は落胆した。
 兵士たちも浮かない顔をしている。

「……公女を王に立てるわけにはいかないんですか? あの王様はぼくも、……ちょっと」
 ぼくの言葉を聞いて隊長か暗い顔をしたまま顔をあげた。
「知っての通り我が国は実力社会。フレディオス王が邪教の信者と手を結んで政治を動かしていた件については裁判で問われるかも知れません……それで王が追放されれば話は別です。しかし……」
「公女より王の方が強いんですか?」

 その問いに、彼らは顔を見合わせる。
 それから首を横に振った。
「……わかりません。王とミレディアナ様は直接対決をなさったことがありませんので」
 なるほど。
 裁判に問われてもフレッドの罪が軽かった場合に、王を追われるほどの刑じゃなかったとしたら……ミレディに勝てば彼は王を続けることになる。

「カイン、もういいわ。早く出発しましょう」
 マリアが横から囁いた。
 ぼくは頷くと、これだけ、とまた隊長に向き直った。

「公女はあの後どうなりました?」
 隊長はそれには少し黙り込んだ。
 そうして、ややあってから。
「……謀反の罪で牢に入れられました。王が悪魔神官の件で裁判に掛けられるのが早いか。それとも公女が謀反の罪で裁かれ処刑されるのが早いか。それはわかりません」
「……、……ありがとうございます」

 ぼくはその答えを聞いてから、きびすを返して舵へと足を向けた。
 胸が張り裂けそうになっているのを堪えて。
 彼女が殺されるかも知れない。
 でも、ぼくは。

 ぼくはリークを救うことを選んだ。
 3人でいることを選んだ。
 彼女がどうなっても……ぼくにはもう、救うすべはない。

 リークはそんなぼくの顔を、ただ黙って見つめていた。





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□モドル□


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