大海原に出てしばらくした頃。
 船室で休み……ようやく気分が落ち着いた僕は、カインと舵を代わろうと彼の元へ足を向けた。
 ちょうどそこにはマリアが居て、二人で何か話していたようだった。
 僕に気づいて二人とも顔を向けてくる。

「良かったリーク、具合は?」
 マリアが微笑みながら尋ねてきた。
「いや、それは……大したことは。なあ、今はどこに向かっているんだ? 舵を代わろうか」
 僕の言葉にカインは少し考えてから首を横に振る。
「もうしばらく休んでていいよ、ちょっと考えてることがあって。……それよりさ、聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと?」

 はて、と首を傾げて見せるとカインは少しだけ押し黙った。
 それから、しばらくして口を開く。
「あ、の……。デルコンダル城で捕まってた時、その……。……、王に……抱かれた、って話……、本当、かな、って」
 途切れ途切れに問うその言葉の端々には。
 フレディオスから聞いただろう話を否定して欲しい、という意図が込められていた。

 僕は少しだけ笑うとカインの頭を撫でてやる。
「……今から何があったか話す、聞いてくれないか」
 カインとマリアは緊張した面持ちで、こくりと頷いた。





 ……突き入れた、かと思った。
 そう覚悟していたから。
 それがぎりぎりのところで止められたと気づいたのは、それから数秒経ってからのことだった。
 なぜ彼が動きを止めたのか目を開けて確かめてみる。

 そばに、男が立っていた。
 神官のような衣服に身を包んだ壮年の男。
 こいつは……。

「王。いくらなんでも悪戯が過ぎますな。王子の御身を穢されては困りますゆえ」
「情事の最中に入って来るとは、貴様も大した身分だな」

 苛立ちを抑えきれない様子でフレディオスは僕から手を離し、身を整えて立ち上がる。
 そうしてからその男を睨みつけた。
 何者だこいつは、一体いつ部屋に入ってきた?

 僕はぼうっと霞む頭で何が起こったのか判断しようと。
 虚ろな瞳で二人を見上げた。
「……わたくし目が王に協力させていただいたのは、ローレシアの王子を陥落し、自我を崩壊させるところまで。……身体を穢されては困るのですよ」
「意味がわからないな。俺が俺の力でこうして彼を手に入れたのだから心なり身体なり、俺が自由にする権利がある」

 フレディオスの主張を男は鼻で笑い飛ばした。
「お前の力? 間抜けな事を申さないでいただきたいですな。私がピオリム、バイキルト、スクルトの呪法によってお前の力を強化してやったから王子と対等に戦えたのでありましょう。それですら、最後に毒針で手助けしてやらねば負けるところだったではありませんか」
 その言葉にフレディオスが歯噛みするのが見て取れる。
 スクルトはともかく、ピオリム、バイキルトとは何だろう。
 失われた呪法か何かか。
 しかしその呪文の正体より何より、やはり彼がルール違反を犯していたのがようやく確信と変わり、それはなぜか安堵に繋がった。

 なぜ安心したのだろう、……負けるはずがないと思っていた相手に負けたから、……でもそれは卑怯な手段を取っただけで実質自分は負けていなかったのだと悟ったから。
 きっとそうに違いなかった。

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□モドル□


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