「愚かなる王よ、……我々破壊神の信徒が曲がりなりにもルビス眷族の信徒であるお前に心よりひれ伏すと思っていたか?」
 男はといえばさきほどまでの丁寧な口調が打って変わって急に強気になる。
「……つまりどういうことだ」
 王が睨みつけながら尋ねると。

 男は何かの魔法陣を指先で描き始める。
 ……かと思うと、突然王の身体が壁まで吹っ飛んだ。
 何だ、何が起こっている?
 仲間割れ?

「我々にはこの王子が必要なのだ。そのために……器をより清浄化するために、心を壊さねばならぬ。……貴様の姦計などどうでも良い。我々は我々の目的を果たす為に貴様を利用したにすぎぬ。今後も私の命を聞くならば、貴様の地位も今後の奴隷の入手も保障しようではないか。王子の心は壊しても良い、だが身体を穢してはならぬ」
「……」

 壁にしたたかに身体を打ち付けたフレディオスは、小さく呻き声を上げてからようやく半身を起こした。
 しばらく黙り込んでいたが、やがて。
「……残念だが仕方がない、な」

 諦めのセリフを吐く。
 まだ、整理がつかない。
 ……要するに王はこの強大な力を持った謎の男の手に寄って今までの地位を確立していたということのようだ。
 そしてこの男……破壊神の信徒、と言った。

 それは同時に僕らの敵であることを意味する。
 だが、それならば納得行かないことがある。
 敵であるはずのこの男がどうして僕を助ける。
 いや、助けるというのには少し語弊があるかも知れない。

 今の会話から察するに、あの男は僕がこのような状況になるように協力したということだ。
 そして、心を壊す?
 身体は穢すな。

 どういうことだ、奴は一体何を狙っている。
 頭を軽く振るが、身体はやはり動かない。

 男が僕に近寄ってきて僕の前で魔法陣を紡いだ。
「レイカーリス・アレン王子。貴方様のお身体を穢すことはさせませぬ。安心してお眠りください」
 そう言ってから何かを詠唱した。
 男の手から光が放たれ僕へと光が移る。

 とたんに僕は眠気に襲われた。
 目を、開けていられない。

「……明日以降、王子をコロシアムに出して対戦相手を殺させなさい。人を殺せば殺すほど彼の心は破壊神に傾く」
 男の声がそう言っているのだけが聞こえ……そして僕は意識を失った。





 僕の話を聞いていたマリアとカインが呆然としている。
 出来れば詳細は話したくなかったが、彼らのあまりの心配ぶりにある程度話さねばと思ったのだが。
 ……やはり退かれただろうか、僕は話す口を止めて恐る恐る二人を見た。

 その、途端に。
「良かった! 良かったぁー!!」
 カインが叫んで飛びついてきた。

 きつく抱きしめられると僕は思わずぽかんと間抜けに口を開けてしまう。
 マリアに目をやると、目と顔を赤くしてから。
 首をふるりと振って目元を拭っていた。

「あ、の……」
 ようやく声を絞り出すとカインが顔を上げた。
「フレッドに変なことされたんだろうってぼく達すごく、すごく……怖くて、だから、……されてなかったって聞いて、嬉しくて、……」
 そういうともう一度僕を抱き締めてくる。

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□モドル□


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