変なこと、…………。
 多少されてはいたのだが決定的な行為には確かに至っていないし、その「多少」について言及する必要もない。
 何より、二人が酷く心配をしてくれていたことを嬉しく思った。

「……ありがとう。僕は大丈夫だ。……それより、カイン……」
 今度は僕が気まずそうに視線を落として尋ねる様子にカインとマリアは不可思議そうな顔をした。
「……どうしたの、やっぱり何かあった?」

 何かあったのはお前の方だろう……。
 僕はさっきのカインとはまるで反対の立場になったと感じながらも、たどたどしく言葉を紡ぎ出す。
「王が言っていた、……お前が試合の朝に来て、何でもするから、僕に手を出すな、と、それで、代わりに抱かれた、と……」
「…………あー」

 カインが妙に間抜けな声を出す。
 それからマリアと困ったように顔を見合わせた。
 なんだかおかしな雰囲気だ。
 僕はカインが何と言うかを待ってみることにする。

 頬を掻きながら決まり悪そうに、カインが言った。
「……それは言った。けど、抱かれてはない」
「───────────── は?」

 一瞬ぽかん、と口を開けてしまった。
 それから慌てて口を引き締める。
 カインは更に続けた。
「朝、君達にいわずにこっそり出かけたんだ。僕が剣士にでも奴隷にでも何でもなるからもしもリークが負けてもリークに変なことはしないでくれ、って頼みに。……兵士に門前払いされたけど。そっか、その話……フレッド王に伝わってたんだな。それを利用して君を騙すのに使ったんだ」
「…………」

 なんだか。
 一気に、気が抜けてしまった。
 抱いた、と言ったのは……僕を動揺させるための嘘、だった、ということ……か。

 僕は思わず大きくため息を洩らしてしまった。
 それを見てカインが慌て出す。
「ご、ごめんこっそり勝手なことして! でも、……嫌だったんだよ、耐えられなかった。君があの王様に変なことされたら困るって、わずかでも可能性があるのが嫌だった、から、……。……結果的にまったく役に立たなかったけど」
「……いいや」

 ぼくは何となくおかしくなって、小さく笑ってしまった。
 カインの頭を撫でてやりながら。
「こうして二人で助けに来てくれた。……ありがとう」
 つられて二人も微笑む。

「……ところでそういえばこれからどこに行くんだ?」
 ふと思い起こして尋ねてみると、カインは宙を仰いで少し考え込む仕草を取る。
 それから。
「デルコンダルから……一番近い、都市」
 とだけ言うと、また舵を取り始めた。
「一番近い都市……」

 それはどこだっただろうか、頭の隅の世界地図を引っ張り出して必死に思い出そうとする。
「私は数年ぶりに行く街だからとても楽しみ」
 横でマリアがからかうように、笑いながら言った。

END



□モドル□


Presented by 小説X ver1.1,