「リークを、……リークをどうしたって」
「我が国で身柄を貰い受け、コロシアムで働く剣闘士となってもらう。紋章も鎧も君たちに渡そう。彼と引き換えだ、それでいいだろう?」

 飄々と言う彼の態度にぼくは唖然としてしまった。
「それは道理としておかしいでしょう。鎧はともかく、紋章は元々キラータイガーとの戦いの報酬のはずです」
 マリアが横から抗議の声を上げる。
 当然だ。
 ぼくは彼とぼくらの間に立ちはだかっているテーブルを強く叩くと噛み付くように身を乗り出した。
「マリアの言う通りです、ふざけないで下さい! リークをどうしたんです! 彼を返して下さい!」
「紋章の件については王子が俺との戦いに勝ったら、という条件に変更になったことで君たちも納得していたはずだ。しかもその戦いは彼自身から提案してきた話。それなのに紋章を渡してやろうというんだよ。感謝したまえ」

 それは、そうだけど……。
 ぼくは困ってマリアに視線を向ける。
 マリアは眉をしかめてなおも噛み付いた。
「ですから、そもそもの最初の条件が変更されるような状況下になったことがおかしいのではありませんか? リークの、……レイカーリス王子の条件は本来なら必要なかったのです。それを提示せざるを得ない状況に貴方が追い込んだ。約束を反故にするとは国を統べる者として恥ずべきことではありませんか」
 うひゃあ、マリアも言うな結構。
 ちょっとどきどきしながら見守っていると、案の定フレッド王は不機嫌そうになった。

「この国では力が正義だと何度も告げてある。そういう法律なのだ。郷に入れば郷に従え。リークが勝てばよかっただけの話。……貴女がたを国家反逆罪として裁くことも可能なのですよ、このまま国に留まってそのような主張を続けるようなら」
 マリアはそういわれて詰まってしまう。
 ムーンブルクがまだ残っていたならきっと彼女は国を挙げて戦うと言っただろう。
 でも、今は……。
 だけどそれなら。

「いいでしょう、そちらがリークを返さないというならぼくにも考えがあります。この事実をローレシア王とぼくの父に報告し、二国共同で貴方の国と戦わせていただきます」
 ぼくの言葉にマリアが顔を明るくする。
 しかし、フレッド王は続けた。
「すぐに戦争、と発展するのはいかがですかね。多くの民を傷つけてまで、我が国の法に従って敗者となった王子を取り戻すと? ……そのくらいならば国際裁判にかけましょうか? こちらが勝つと思いますが」
「……」

 反論の余地が無い。
 どうすればいいかと考えあぐねていると、マリアが再び前に出た。
「……本日のところは下がらせて頂きます。また交渉に伺います。……彼は、ハーゴン討伐に必要な人材なのです。それをお忘れにならないようお願い申し上げます」
 そういうと、出来るだけ丁重にお辞儀をする。
 ぼくもつられて頭を下げた。

 フレッド王は、ふんと鼻を鳴らした。
「良かろう。好きなだけ滞在されるがいい。それだけ、そのハーゴン討伐とやらが遅れることになるだろうが。私としてはロトの血を引くお方が二人もいるんだ、二人で討伐を続ければよかろうと思うんだがね」
「……三人、必要なのです」

 ぽつりと、それだけ言うとマリアはぼくの手を引いて謁見室を後にした。
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□モドル□


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