こら、何してるんだよ、勝手にマリアに触るな!
 ……そう思って間に入ろうとすると、フレッドは更に続けた。
「いいえ、関係ありますとも。……貴女に手を出したいが出来なかったとゆうべ彼に告げたところ、かなりお怒りのご様子でね。彼が執着する貴女に興味が湧いたのです。俺は外見の美醜では他人を判断しませんが、なるほど……こうして見るとお美しい」
「……お戯れを」

 視線を落とすとマリアはその手をそっと握り、下ろさせた。
「代替案については丁重にお断りいたします。紋章を頂き、わたくし達は早急にこの国を発ちますゆえ」
「それは残念だ。……そちらの王子はそれで納得してらっしゃるのかな」
 話を振られてぼくは少し迷ってみせた。
 
「ぼくは、……マリアがそういうのならそれで構いません。もし話がうまくいかないようなら貴方の言った通りリークの身代わりになることを考えたけど、ぼくで代理になるかどうかはわからないから口にするのを控えていました」
「俺は君でも構わないよ。夜伽の相手をしてくれるなら。君も見目はなかなか悪くない。仲間と協力したとはいえ、君もあの狂豹に勝った一人だ」
「……」

 今、彼が言った言葉が理解できなくてぼくは口を結んでまじまじと相手を見つめてしまった。
 マリアも目をしきりにしばたかせている。
「よ……とぎ、とは?」
 ぼくが呆気に取られながら尋ねると、
「耳慣れない言葉だったかな。寝所の相手をしてもらおうということだよ。男妾としてね」
「だん、……」
 夜伽の意味はわかるよ、ぼくはどういう意図でその言葉を使ったのかを訊いただけだ。

 でも、ちょっと待て、ちょっと待った。
 何かがぼくの頭でひっかかった。
 そして考えたくない方向に意識が向かう。
 待って。
 ちょっと待って。

 訊く? 訊かない?
 訊いたらだめだ、きっとぼくの中の何かが崩れる。
 だめだ、怖くて、訊けない。

「……デルコンダルの王は、同性相手でもそういったことをなされるのですね」
 マリアが皮肉を込めていうと、フレッドがくすりと笑む。
「もっと昔の戦乱時代なら当たり前のことだったろう? 戦場に女は連れて行けない代わりに。……貴女のように、そのようにたおやかでありながら男に引けを取らずに戦える女性は珍しい。むしろ居ないとも言えよう」

 さっき彼がいった「男妾」という言葉。
 それがぼくだけに向けられた言葉なら、呆気にとられたこの場で終わりだ。
 でも、……ああ、だめだ。
 ぼくはわざと思考を麻痺させる。
 考えたくない。
 考えたくない。
 訊いてはいけない。

 だけど……。
 訊かずには、居られなかった。

「……フレッド王。失礼ながら伺います」
「何か」

 王が応えると、ぼくはごくりと息を飲みこんだ。
「……昨夜、リークを男妾として抱いた、んでしょうか……」 
「……、……さてね」

 視線を逸らすとフレッドは無表情になった。
 しかしそれは肯定したのと同じことだ。
 ぼくの身体中から血の気が失せるのがわかる。

 心配していたことが、とうとう起こってしまった。
 殴りたい、殴ってしまえばどんなに楽になれるだろう。
 だけどそれをすればマリアの計画が台無しになってしまう。

 ……あぁ、気が変になりそうだ。
 早く彼に会いたい、彼を取り戻したい。

 ふと、マリアに視線をやると。

次へ



□モドル□


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